リヤカーの句

 

吉行和子・冨士眞奈美の
『おんなふたり奥の細道迷い道』をおもしろく読みました。
本の帯に
「抱腹絶倒な俳句人生論」
となっており、
興味津々。
抱腹も絶倒もしないけれど、
たしかに笑えます。
もうひとり岸田今日子を入れ三人大の仲良しだったわけですが、
岸田さんが先に亡くなり、
吉行さんと冨士さんのふたりが残されました。
長年の友だちですから、
肩の凝らないいわば普段着のままの会話が
録されており
読んでいてなんとも心地よい。
たとえば。
芭蕉の『奥の細道』について話しながら、
男の涙が話題となる箇所があります。
芭蕉の「塚も動け我(わが)泣(なく)声は秋の風」
に冨士さんが言及すると、
「すごいよね。「塚も動け」だもの、大げさよね」
と吉行さん。
さらに、
「男は一生で何回くらい泣くのかなあ」
それに対して冨士さんは、
「昔は親が死んだ時って言ってたけどね」
この展開、
仲のいい、しかも女同士ならでは
と思わせるではありませんか。
と、
読んでたのしく愉快な本ですが、
それぞれの詠んだ俳句も載っており、
そのなかに、
冨士さんの「汗のリヤカー北上撮す友のあり」
がありました。
東日本大震災の後、
石巻を訪ねた折につくった俳句のなかのひとつ。
「汗」「リヤカー」「北上」「撮」
といえば、
これはもう橋本さんでしょう。
そう、写真家の橋本照嵩さんです。
橋本さんは吉行さん冨士さんの句友でもありますから、
宜なるかな。
この本にぐっと近づき、
なかに入り込んだ気がしました。

 

・大きさを目で測りけり新秋刀魚  野衾

 

忘れ物

 

帰宅途中、虫の声が聞こえ、
秋を感じさせます。
きょうの午後は雨模様ですが、
気温はさほど上がらず
しのぎやすそう。
さてこの時期の気分として例年感じることですが、
たとえば忘れ物をしたときのような、
なにか大事なことを
し残したような、
会わなければならない人に
まだ会っていないような、
そんなような、
もの寂しい気分。
燃えるような夏を何とかやり過ごし、
ようやく深呼吸ができるようになったというのに、
これはどうしたことでしょう。
ほんとうに忘れているものがないか、
よくチェックしてみなければ。

 

・新涼や忘れ物せし心地する  野衾

 

残残暑

 

しぶとい!
いや、この暑さのことですがね。
いちにちの最高気温が三十度を切ってやれやれ
と思いきや、
まだしぶとく
三十度台にしがみついている感じ。
いい加減にしてくれよ。
横浜地方、
きょうの予想最高気温は二十五度。
ほんとかなぁ?

 

・笹竜胆風が色づく宿りかな  野衾

 

学術書を読む

 

ことし二月のことでしたが、
朝日新聞社主催のブックフェア「築地本マルシェ」において、
「学術書を読む――『専門』を超えた知を育む」
をテーマにした鼎談に
声をかけていただきました。
そのときの模様が
朝日新聞社のサイトにアップされましたので、
ご覧いただければ幸いです。
コチラ
対談、鼎談、講演の機会があるたび、
まえもって語りの準備をし、
レジュメをつくり、
本も数冊から
多いときは十数冊読んで臨みますが、
そのことがわたしにとりまして
とても勉強になります。
外の風に触れるうれしくありがたい機会です。

 

・稲刈りのにぎはひに来る雀かな  野衾

 

オイルマッサージ

 

家人がスリランカを旅し、
みやげに買ってきたオイルで
三日つづけてマッサージしてもらった。
首、肩、肩甲骨のあたりの凝りがほぐれなんとも気持ちよく、
だけでなく、
やたらぐっすりと眠れる。
AYURVEDICという単語も見えるから、
アーユルヴェーダの考え方に基づくということか。
観光客向けのものだとは思うが、
替えがたく気持ちよいのは間違いない。
ハマリそう!

 

・新涼の日記(にき)つく父の皺手(しわで)かな  野衾

 

変哲さんの好きな良寛句

 

俳優で芸能研究者として名を成した小沢昭一さんは、
俳人でもあり俳号は変哲。
『俳句で綴る変哲半生記』(岩波書店)
を読んでいましたら、
俳句はもちろんたのしく
滋味にあふれてもいるわけですが、
とちゅういくつか
俳句にまつわるエッセイが録されており、
かつて一世を風靡したラジオ番組
『小沢昭一の小沢昭一的こころ』の語り口
をほうふつとさせ、
なつかしくなりました。
変哲さん、
良寛さんの俳句が好きらしく、
いくつか紹介し、
肩の凝らない文を添えています。
良寛さんの句のなかで「私の最も愛する句」
として挙げているのは、
「柿もぎのきんたまさむし秋の風」
ははぁ。
きんたまねぇ。
いまみたいにズボンじゃないだろうから、
下から風がねぇ。
なるほど。
この句を好きだという変哲さん、
この句をつくった良寛さん、
どっちも好きだなぁ。

 

・秋の香と思へば灸のにほひかな  野衾

 

新涼

 

涼し、だけだと夏の季語ですが、
涼に新がつくと秋の季語。
いまがまさにそれかなぁと思います。
雲のかたちが夏とは異なり、
だけでなく、
流れる方向がちがっていたり、
空を舞台にして前で踊る雲あり、後ろで踊る雲あり。
目まで涼しくなる感じ。

 

・秋天より天狗現る気配あり  野衾