岸辺なき流れ

 

・白シャツの乾きて風に吹かれけり

 

ハンス・ヘニー・ヤーンの『岸辺なき流れ』
上巻半ばまで。
読み始めは、
ちょっとこれきついなあ、
と思ったものですが、
物語の独特の進行に慣れてきたのか、
小説を読む醍醐味がじわりと。
ヤーンはマイナーな小説家らしく、
日本ではあまり読まれていないようです。
プルーストやジョイスと比較される作家ですが、
本人はカフカを意識していたのだとか。
この本を知ったのは、
図書新聞に掲載された書評でした。
いま手元にないので、
どなたの
どんな内容の書評だったのか
忘れてしまいましたが、
緊張感のある
いい文章だったと記憶しています。
書評がよかったので、
そういう小説なら読んでみようと思いました。
装丁は間村俊一さん。
ヤーンの小説では、
ほかに『十三の不気味な物語』が
種村季弘訳ででています。

 

・夏静かカレーの匂ひ屋に充つ  野衾

 

急ぐなよ

 

・夏草や朝靄の中馬一頭

 

このごろは、
口に入れるものは何に限らず
ゆっくりと、
よく噛んで食べるようにしていますが、
そうすると、
胃腸の具合がいいのはもちろん、
頬の内側や舌先を
間違えて齧ることがとんとなくなりました。
通の食べ方からはほど遠く、
しかし、
米も麦も蕎麦も饂飩も、
本来の味がわかり、
じわり体に沁みていくようです。

 

・荷を担ぎ工事現場の蟻二匹  野衾

 

岩波文庫

 

・世の裏も表も中も蟬の声

 

ドナルド・キーンさんの『日本文学史』を読み終えましたので、
電車内で読む本を、
アウグスティヌス『神の国』に替えました。
『日本文学史』中公文庫。
『神の国』岩波文庫。
さてこの岩波文庫、
字が小さい。
車中、
焦点を合わせるのに苦労します。
岩波文庫には、
古今東西の古典が多く入っていて
助かりますが、
なんでこんなに字が小さいの?
というのが少なくありません。
岩波には岩波さんの事情があるでしょうけれど、
分冊数が多くなっても、
訳を変えずに
字を大きくするだけで、
新しい読者が増える気もしますが、
どうでしょう。

 

・夏草の香を嗅ぐ少年発情す  野衾

 

人間まるごと

 

・かき氷宇治金時を寝釈迦かな

 

帯津良一『一病あっても、ぼちぼち元気』を面白く読みました。
帯に、
「メタボ検診、大きなお世話!
ちょっと血圧が高い
コレステロール値が高い
そんな人は、帯津式健康法で
心も身体もまるごと元気」
期待してページをめくると、
なんともたのもしいことばがバンバンでてきますが、
帯津さんは、
東京大学医学部を卒業した医学博士。
現在は、
帯津三敬病院の名誉院長、
れっきとした医者です。
病を見て人間を見ないあり方に警鐘を鳴らし、
人間まるごとの健康を提唱しています。
まるごと、
うん!
数値ばかりを気にすると、
きのうまで健康だったひとが、
きょうから病人、
そんなことになりかねないとも。
帯津さんは、
ご自身痛風持ちで、
左足の親指がちょくちょく痛くなるそうです。
が、
そんなの気にしない。
腫れた親指が靴に入らず、
サンダル履きで講演に出かけるときもあるのだとか。
こういうお医者さんがいてくれると、
いてくれるだけで、
なんともこころづよい。
帯津さんは1936年生まれ、
まるっとにこやかな
八十一歳のおじいちゃん先生です。

 

・涼しさやゴクリ飲み干す喉の音  野衾

 

女子大は

 

・風吹くや汗が楽するあばた顔

 

とある学会の講師に呼ばれ、
五反田の駅から歩いて会場へ向かいました。
緑に囲まれた小高い丘の上にある
閑静なたたずまい。
階段の上から若い女性が数名下りてきて、
すれちがいざま、
こんにちは、
(はい)こんにちは。
礼儀正しい女子大生です。
校風なのでしょう。
女子大生たちの挨拶に
気をよくし、
指定された建物に少し早めに着いたので、
用を足そうとし、
はたと気が付いた。
そうか、
ここは女子大か。
男子トイレが圧倒的に少ない。
案内板をにらみ
やっと男子トイレのある場所を見つけ、
ゆっくりと、
腹の袋が空っぽになるまで力み。
さてこれでよし。
準備万端。
会場には、
どんどんひとが集まっておりました。

 

・坂道を汗を拭き拭き上りきる  野衾

 

 

・片蔭に入るも頭は突き出たり

 

右肩にカバン、
右手に打ち合わせのためのゲラと本二冊、
左手にスーパーで買った果物、
体を引きずるように歩いていると、
酒屋の主人がわたしを見、
さっと右手を斜め上方に伸ばしました。
なにかと見れば、
虹。
ああ。
虹ですか…
さっきはもっと濃かったんだけどね。
暑いですねえ。
暑いねえ。
どうもどうも。
どうも。

 

・屋にいて外の世界の涼しかり  野衾

 

ブラジルと

 

・開閉す呼吸のごとく夏の蝶

 

このごろはまた朝、
サイフォンでコーヒーを淹れて飲んでいます。
今週はブラジルとケニア。
サッカーの試合みたいですが、
そうではなく、
コーヒー豆を二種類買ってきては、
自分でブレンドした味を楽しんでいます。
ブラジルは若いときから好きな豆でこれは定番。
珈琲店の若いマスター、
以前は、
「ブラジルとおお、もうひとつ何にしますか?」
と訊いてくれたものでしたが、
今はきっぱりと、
「ブラジルときょうはケニアにします」
マスターおすすめのものを
提示してくれます。
そのほうが、
わたしもありがたい。
「はい。それでお願いします」
ケニアの次はどこの豆だろう?

 

・黒揚羽写真拒みて消えにけり  野衾

 

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