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奥邃の文

 

・風薫るかつてこの地の古墳群

仕事がら、
いままた奥邃の文章を読んでいますが、
奥邃のは、
かつて読んだ文のだれともなにとも似ていない。
似ていないということは、
独特の味わいがあるということで、
広やかな伸びやかな気に触れ、
息が深くなるように感じます。
奥邃の文には
「わたし」がまとわりついていない。
そこがほかの書き手と決定的にちがう。
清潔が天国への第一歩ということですから、
冗談でなく、
深い本気が文にも現れているのでしょう。
捨て身、
ということでもないけれど。
則天去私と有神無我は似て非なるもの。

・薫風や汽笛の音を載せ来たり  野衾

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ジャス

 

・見えねども夏を賑わす雀かな

鵠沼海岸の整体師宅には
ネルとジャスがいて、
ジャスは猫。
訪ねていって部屋に入り
ジャスを見つけ、
「ジャス!」
と呼ぶとこちらを見ることもあれば、
見向きもしなかったり。
ジャスは猫。
九十分施術してもらい、
帰り際、
「ジャス、またな。バイバイ」
と、
とことこ歩いてくることはなく。
したがって、
「ダメだよついてきちゃ。また来るからさ」
と言うこともなく。
何を考えているのやら。
雀が鳴いています。

・花あやめ翁の顔に似てゐたり  野衾

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ネル

 

・潮の香を運び来たるや初夏の風

鵠沼海岸の整体師宅には
ネルとジャスがいて、
ネルは犬。
訪ねていってネルを見つけ、
遠くから「ネル!」
と呼ぶと瞬時にこちらを見、
耳をピンと立てます。
九十分施術してもらい、
帰り際、
「ネル、またな。バイバイ」
と、
とことこ歩いてきて、敷地の枠から抜け出てきました。
「ダメだよついてきちゃ。また来るからさ」
敷地の中まで送り返したら、
今度はおとなしく、
だまってこっちを見ていました。
雀が鳴いています。

・新緑やペットボトルの水ごくり  野衾

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馬車道十番館

 

・葉が揺れてひとのこころも五月かな

爽やかないい季節になりましたので、
散歩がてら馬車道十番館へ。
通りから何度も目にしていましたが、
中に入るのは初めて。
見るからにがっしりとした作り、
天井が高く、
ゆったりと落ち着きます。
天井を見上げているうちに、
ああ、
これも一つの余白であるなあと。
このごろの建物は、
空間を節約するためか、
やたらに天井が低く息苦しい。
余白のない本が息苦しいのと同じ。
余白の風を浴びながらポークピカタ。

・草いきれ鼻づらふるはす黒毛かな  野衾

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西瓜

 

・田仕事の夢の入り口目借り時

このところ、連日西瓜を食べています。
子どものころから、
嫌いでなく、
いや、
むしろ好きではありましたが、
わたしより
弟のほうが圧倒的に西瓜好きで、
それにくらべると、
わたしのほうはふつう
というか。
それはともかく、
西瓜を食べたときの、
みずみずしい甘さもさることながら、
触感がたまりません。
かぶりついた時のあの音!
スクワッシュ、グワッシュみたいな…。
まるで水を食べているようです。

・雉鳴くや我が妻今朝も寝てゐたり  野衾

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三浦衛(みうら・まもる) 春風社代表にして自慢大王&悪ノリ大王。体調のいいときは自らを天才と称し、不調の折はちりあくたにも劣るヤツとしょんぼり。

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三浦衛の本


『カメレオン』
 三人ときどき声にならぬ声を洩らし/とろけ とろけ 唾までとばし/クヂるとナメるとネヂるとチョす…(「鳶」) 自在に色を変え、不意に突き刺さる、軽妙なことばの戯れ。秋田方言満載の詩集。本文は金属活字による活版印刷。


『マハーヴァギナまたは巫山の夢』
 三平佐世夫は、千一夜の夢うつつで女と戯れ、印度に旅し、睾丸を抜かれ、鰐を飼い、横浜を彷徨う。言語の崖っぷちを綱渡りする、めくるめく冒険。本文活版印刷に美麗造本を施した平成の大奇書。


『父のふるさと』
 父の目に映じた故郷の風土、ひと、くらし、農事を、愛惜をこめ描きだす。本文は金属活字による活版印刷。「身と蓋函」に納める。


『出版は風まかせ』
 横浜の出版社「春風社」社長が本づくりと会社経営にまつわるエピソードを豊富におりまぜ、創業から10年を振り返る。