火曜日

 

・梅雨の日をひねもす本とごろ寝かな

 

週の二日目、
11時45分に必ずやってきて、
二人掛けの小さな四角いテーブルの片側に座ります。
ステッキをそばに置き、
帽子は女将さんに預けます。
瓶ビールを一本。
つまみはその日の気分で適当に。
ほどなくもう一人の老人。
背が高い。
テーブルの向かいに陣取り、
こちらはだいたいカツ丼を所望。
将棋の天才少年の話などは一切せず、
かならず野球の話。
わたしは黙って
海苔せいろ+玉子丼ごはん少なめ。

 

・梅雨は梅雨逸るこころを押しとどむ  野衾

 

本に隠れる

 

・校正の目を上ぐ先の走り梅雨

 

恐ろしいものから逃げて、
逃げて逃げて、
ここなら絶対見つからないだろうという処に
隠れるのですが、
どういうわけか嗅ぎつけられてしまう、
そんな夢をよく見たものでした。
が、
このごろとんと見なくなった。
隠れるところがないというのは恐ろしい。
そんな時代がどうやら始まっていて、
夢よりも鬼よりも恐ろしい。
貧乏神の薄ら笑い。
こうなったら、
本に隠れるしかない。
大学、中庸、法華経、正法眼蔵、聖書、杜甫、論語、
隠れる本はいくつもある。
隠れる場所のある本がいい本だ。

 

・荒梅雨や紙の擦れる音すなり  野衾

 

夏休み

 

・賑はひの止みてひねもす五月雨

 

夏休みが近づいてきました。
と言っても、
会社の休みはたかが知れています。
夏休みといえば、
やっぱり小学時代。
計画は立てましたが、
別にどうということはなく。
絵日記なんか、
最後の二日でまとめて描いて出したりしてましたから。
絵は苦手だったなぁ。
元い!
いまも苦手。
目の前のものやひとを見て描くのは、
まあまあできるのですが、
なにも見ないで、
想像で描くとなるとからっきし。
もしもピアノが弾けたならと思うことはなくても、
もしも絵が描けたらと思うことは間々あり。
それはともかく、
さてきょうはなにをしようかなぁ
と考えていたあのころ、
なににも増して至福のときでした。

 

・夏草や馬の嘶く声がする  野衾

 

なつあけ

 

・六月の雨の歌あり歌詞忘る

 

日中は暑くても朝は爽やかな季節。
住まいするこの辺り、
金曜日は燃えるゴミの日。
家人が寝ている間に
半透明の袋を用意し、
数個の箱からゴミを集めて夏暁の外へ。
小鳥が鳴き、
蟬はまだかいな、
富士の霊峰が右手に小さく、
なれど、
かたちはまごうかたなき富士の峰。
とおくから汽笛の音…
よしよしと。
きょうはいい日になりそうです。
なってください。

 

・夏暁の汽笛涼しく鳴いてをり  野衾

 

夢であう

 

・五月雨を身に帯びつつの出社かな

 

起きて暮らしているときは、
めったに思い出すことのないひとなのに、
なにがきっかけでそうなるのか、
どういうメカニズムになっているのか
分かりませんが、
夢にあらわれることが間々あります。
そうしてだいたい
悲しい別れが待っています。
うっ、うっ、うっ、と
むせび泣いたりもし、
寝ている家人を起こすことも。
じぶんが主人公の映画を見ているよう。

 

・五月雨やランドマークを隠しをり  野衾

 

たとえばなし

 

・騒がしき埃流して五月雨

 

聖書でも法華経でも、
たとえばなしがよくでてきます。
なんだこの子供だましみたいなはなしは、
と、
高をくくって読んでいた
時期もありました。
が、
読めば読むほど、
かめばかむほど、
面白くなってきます。
うつむかざるを得ない自分に
気づかされます。
たとえばなしには、
無駄なおしゃべりを黙らせる力がある。
イエス様もお釈迦様も、
そのことを知って、
たとえばなしをしていたのでしょう。

 

・めざめよとせいいつぱいのほととぎす  野衾

 

両手両肩

 

・風を聴く坂の途中の木下闇

 

会社帰り、
スーパーでちょっと買い物でもしていこうかな、
と思ってコースを変えたら、
わたしの前を、
背の高い頑丈そうな女性が歩いていました。
ゆっくり大股で歩いていきます。
しかも、
両肩に布製の袋をぶら下げ、
両手にはレジ袋、
計4袋。
ぶら下がり方から推して、
どれもそれなりの重さがありそう。
すごいなあ。
肩凝らないのかな?
たくましいなぁ。
うらやましいなぁ。
と、
驚いたことに、
わたしが向かうスーパーに入っていきました。
ま、まだ買うつもりのようです。
しかし…
五つ目の袋をどこにぶら下げるつもりなのでしょう?
ふむ…
ん!
もしや。
首?

 

・朝風呂やきのふの憂さの捨てどころ  野衾

 

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