最悪な客

 

・冬の日や我も歩けば句に当たる

 

タクシーの運転手もいろいろですが、
感じのいいひとだと
目的地に着くまでの短い時間、
なにとはなく話すことがありまして。
割とよくする質問が
「最低最悪な客は?」
そうすると、
これはもう100パーセントの答えが、
「もどす客」
つまり車内で嘔吐する客。
クリスマスイブの日に、
さてきょうは書き入れ時と勇んで仕事を始めたところ、
最初の客が若いカップルで、
車内の空気に温められているうちに
ふたりつぎつぎにゲロゲロゲロッピー。
そんな話を聞いたことがあります。
客に吐かれると、
その日の仕事は終了。
なぜなら、
いくら掃除しても
ゲロの臭いというものはちょっとやそっとじゃ消えません。
泣くに泣けない事情を話したら、
5000円追加でくれたのだとか。
しかし
5000円では焼け石に水、
いや、
ゲロに札なわけで、
とは言い条、
それ以上くれとも言えずあきらめたと。
仕事仕事で
人知れず苦労があります。

 

・右肩を掠めくるりの落ち葉かな  野衾

 

筑土鈴寛

 

・ほとがやの門(と)をわたり啼く千鳥かな

 

わたしの編集上の師匠は
ヤスケンこと安原顯でありますが、
ヤスケンの奥様はすてきに豪快な筑土まゆみさんでありまして、
なんどかお目にかかり、
ごちそうになったこともあります。
なんでこんな自慢をしているかといえば、
昨日小西甚一の
『梁塵秘抄考』を読んでいたら、
筑土鈴寛(つくどれいかん)の名を見つけ
目を瞠ったからです。
小西さん、
『梁塵秘抄考』の執筆にあたり、
鈴寛さんから
貴重な資料を見せてもらった
だけでなく、
いろいろ教えてもらったことを記しています。
筑土鈴寛は著名な僧侶にして民俗学者。
まゆみさんは筑土鈴寛のお嬢様。
いやほんとに、
世間は狭いなぁ。

 

・買い物を終えて後ろの寒さかな  野衾

 

同窓会

 

・日と風に煽られ吹き飛ぶ枯れ尾花

 

同窓会といえば、
ふつうは学校時代のひとの集まりですが、
きのう、
あることがきっかけで、
前に勤めていた出版社の同僚八人が
久しぶりに集合し、
旧交をあたためました。
そのうち三人は春風社。
弊社は十九期目に入りましたから、
ほぼ二十年ぶりに再会するひともいたわけで、
変らないわけはありません。
が、
思い出せばたいへんだった仕事も
どくとくだった社風も、
今となっては笑い話。
そういう日を迎えられたことがありがたく、
また感慨も一入。
昼からビールとワイン。
笑いが絶えず。
ああ楽しかった!
来年八十だというかつての同僚が、
日ノ出町の駅で
何度も手を上げ手を振っていた姿が
目に焼き付いています。

 

・連れ立ちて犬も見上げる冬紅葉  野衾

 

テレビを見るときは

 

・駅ホーム斜めより来る時雨かな

 

このごろ肩と首のこりがひどく、
鎖骨骨折の後遺症か
と高をくくってきましたが、
それもあるとは思いますけれど、
そうとばかりも言い切れないような。
というのは、
休日明けのこりがとくにひどく。
これは明らかに
休日の過ごし方に問題がありそう。
思い当たる節がありました。
わたしは、
寝転がってテレビを見る癖がありますが、
休日はふだんとくらべ、
テレビを見る時間が多くなる。
それがどうもよくない。
テレビを見ることが悪いのではなく、
寝転がって見るのがよくない。
そう思ったので、
きのうは、
テレビを見るときは布団の上に正座して見ました。
するとどうでしょう。
けさの肩こりはそれほどでもない。
ものを見るときは
体をまっすぐにして見る
ように、
目は鼻の横に付いているのでしょう。
ガッテンしていただけましたでしょうか?
はいガッテンガッテン!

 

・予報士の予報を知らずしぐれ犬  野衾

 

少年

 

・小春日の運動場の白き子ら

 

わが社が入っている教育会館に
くもん行くもんの公文ができ、
ときどき
子どもたちを見るようになりました。
学校の勉強のほかに
公文で勉強。
子どもは子どもでたいへん。
仕事帰りに廊下に出、
トイレの前を通り過ぎたときに、
ドアが開き、
ふと見ると、
少年が現れました。
左の鼻穴にティッシュが詰まっています。
鼻血か?
わたしに見られていることを
知ってか知らずか、
悪びれもせず、
ゆっくり静かに歩いて、
教室に戻っていきました。
がんばれ少年。

 

・ターミナルひとと車に舞ふ落ち葉  野衾

 

たこちゃん

 

・三渓園まで冬を迎へに山手より

 

季節はすっかり冬めき、
寒々したきょうこのごろであります。
会社を出ると、
そとはとっぷりと暮れ。
紅葉坂の横断歩道をわたって右に折れ、
寒さをこらえ歩いていると、
「たこちゃんでちゅかー
たこちゃんでちゅかー
そうでちゅよー
みみちゃんは
そうなんでちゅかー
ママは
ふんふんふんふん
パパはねー
おしごとなんでちゅよー
もうすぐかえりまちゅからねー
……」
思わず振り返って見てみました。
黒いダウンを着た男が
スマホを耳にぴったりとあて、
歩道を行き交う少なくない人のことなど
ものともせず、
たこちゃんでちゅかー
を連発。
わたしはといえば、
振り向いた体をもとに戻し、
うつむきながら、
たこちゃんとは、
貴子?孝子?多香子?
はたまた多貴子?多津子?民子?(それはないか)玉子?(それもないか)
たら子?(それは絶対ない)
いずれにしろ、
「た〇こ」があまりかわいくて
「たーこ」になり、
「たーこ」が短くなって「たこ」になったのだなと、
ひとり考えをめぐらし
歩いたのでした。
たこちゃんでちゅかー。
おわり。

 

・初しぐれ猿も小蓑もなかりけり  野衾

 

エアロスミス

 

・しぐれ来よ友と步かん句をつくらん

 

若いころあまり聴かなかったエアロスミス、
会社でときどきかけては、
聴くというより、
流しています。
原稿読みに疲れたり、
むしゃくしゃした気分のときなど、
エアロスミスを聴くことで、
気分を晴らします。
いま聴くと、
音づくりが大げさで、
ある種のアニメソングに思えないこともない。

 

・冬ざれの丘を越えゆく歩数(ほかず)かな  野衾

 

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