紙を読む

 

ひと月ほど前、
横浜線の電車に乗っていたときのこと、
盲導犬に曳かれた初老の男性が乗り込んでき、
わたしの向かいのシートに座りました。
犬は男性の足下にうずくまりおとなしくしています。
男性は背中のリュックを下ろし、
なかからA4判の紙の束を取り出して指先を移動させていきます。
一ページめくるのにそんなに時間はかかりません。
ときどき犬の頭をなでたりしています。
そしてまた指先がページに戻ります。
車内がシーンとし、
そこだけうすく光っているようにさえ見えます。
紙はこうして読むものだと、
視力のあるなしにかかわらずなのだ
と思いました。
だいじなことを教えていただいた気がします。

 

・からぶれど姿ただしき冬の山  野衾

 

師走

 

おなじひと月なのに、はやいはやい。
著者のもとへどうしても今月中に届けたい再校ゲラがあり、
ただいまガシガシとすすめている最中
ですが、
思うように捗りません。
賀状書き、大掃除など、
年末ならではの行事もあり、
指折りかぞえてみると
そんなに時間が残されていません。
さてきょうはどれぐらい進められるか。

 

・下手なりに画でも描きたき柿落葉  野衾

 

二本立て

 

大手コンビニエンスストアのローソンが、
500円コーヒーを販売するというニュースがありました。
コーヒーの木の樹齢は
ほぼ30~40年であることが多い
のに対し、
樹齢100年以上の木から豆を収穫し、
それを焙煎したコーヒーを提供するそうです。
ちょっと飲んでみたい。
担当者のコメントのなかに
「コーヒーは嗜好品なので」
ということばがあり、
なるほどと合点がいきました。
紙の本もそれに近いところがあるなぁと。
弊社でもいよいよ
電子書籍化を本格的に考えていこうと思っています
が、
わたしの考えでは、
これから電子書籍がふだんづかいのものとなり、
紙の本はますます
嗜好品化していくことになる
のではないか。
それはそれで面白い。
嗜好品には嗜好品としての価値があり、
必要に応じた使いかた、享受の仕方があってしかるべきだと思うからです。
そのことをきちんと押さえておくことで、
電子書籍も紙の本もさらに
みがかれていくような気がします。

 

・凩にしがみつきをるいのちあり  野衾

 

賀状書き

 

いよいよ賀状書きの季節がやってまいりました。
今回の画は、
版画家・矢萩英雄さんの
Café time。
ガネーシャが左手にコーヒーカップを持っている版画を
矢萩さんの了解を得て
つかわせてもらうことにしました。
「春風新聞」第23号の表紙を飾ったものですが、
好評につき
今回再度お願いした次第です。
印刷されたものを昨日渡したところ、
矢萩さん満足げな表情で、
ホッとしました。
さてきょうから賀状書き。
これもまた平成最後ということになります。

 

・冬夕焼老翁の背や権太坂  野衾

 

鱖魚群

 

第六十三候。
さけのうおむらがる。
きょうから21日金曜日まで。
サケなのになぜ「鮭」でなく「鱖」の字か。
中国の暦が日本に入ってきた際、
日本にはいない中国の鱖魚(けつぎょ)に似た生態のサケをあてた
と説明している人もいますが、
よく分かりません。
横浜はきょうは雨模様です。

 

・雪嶺や薄紫にからびたる  野衾

 

メモパッド

 

毎日つかうものにメモ用紙がありまして、
いろいろ試してきましたが、
いまは
無印良品のメモパッドをふだんつかっており、
たいへん重宝しています。
縦140×横100mm・200枚で税込み84円。
原料に古紙(50%)の再生紙を使用しているためか、
紙がすこし黄色味がかっており、
その色と肌触りが、
メモをするのにちょうどよく、
鉛筆で書く場合でもそんなにストレスがありません。
古紙の割合が高いものもありますが、
それだと、
ボールペンならよくても、
芯の濃さにもよるとはいえ
鉛筆には合わない気がします。
ということで、
先日さらに三個買い足しました。
200枚×3=600枚ですから、
しばらくもつでしょう。

 

・踵(あぐど)ずるり敷布に倒る冷(すさ)まじき  野衾

 

忘年会

 

ことし前半、体調不良にみまわれ
社員をはじめ、
ご縁のあるかたがたに
多大なご心配をおかけしましたが、
どうにか持ち直し、
写真家の橋本さんもお招きして、
きのう忘年会をひらくことができました。
会の冒頭、
乾杯のあいさつをした折、
ことし読んだ本のなかからベスト2を紹介。
ひとつはカルヴァンの『キリスト教綱要』
ひとつはプラトンの『国家』
いずれも
その文章と論にながれる時間の観念に圧倒されます。
千年二千年が
ひよわな想像でなく、
たしかに幻視されたものとして
こちらにひしひしと伝わってきます。
その迫力。
学術書の出版社としては、
たとえばカルヴァン、プラトンの後塵を拝し、
千年二千年を幻視しつつ、
世のためひとのため
になるような本を上梓しつづけたいです。
あと二週間とちょっと。
気を抜かずに行きたいと思います。

 

・いとどしく鷄焼く煙(けむ)や寒夕焼(かんゆやけ)  野衾

 

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