池内さんのこと

 

池内紀さんが亡くなったことをきのうの新聞で知った。
まとまった本としては出したことがなかったが、
ご縁を賜り、
『おうすいポケット』の巻頭言などを書いていただいた。
またトークイベントのため、
二度ほど弊社へお越しくださった。
原稿はいつもFAXで、
小さくとてもクセのある直筆の文字で書かれていた。
文のはじめに時候のあいさつと
ちょっとしたイラストが添えられているのが常だった。
いま弊社では
二十周年企画として『春風と野(や)』の冊子をつくっているが、
池内さんにも原稿をお願いした。
下の写真は、
今月13日にFAXでいただいた原稿である。
こちらの組に流し込み、
著者校正用ゲラをお送りし、
25日に池内さんの朱の入ったゲラがFAXで届いた。
それから五日後に池内さんは亡くなった。
弊社で行ったトークイベントの際、
死が引き算であることについて
池内さんはいつものやさしい静かな口調で語った。
「引き算は、
皆さんも体験されていると思います。
ぼくはそういう過程(両親の死のことなど)のなかで文学を知った
ものですから、
ことばを足すことによって世界ができあがる、
自分の努める気持ち次第で、
どのようにも増えていく、
こんなすばらしい世界があるというのがうれしかった」
そのことばが、
あのときの表情、語り口といっしょに、
なんどもリフレインされる。

ご冥福をお祈りします。

 

・惜しむごと裏の畑の秋の蝶  野衾

 

カラスの紅いノド

 

わたしが住んでいるところは保土ヶ谷の山の上、
すぐそばの電柱に
毎日カラスが二羽、三羽とやってきます。
たしか今週の月曜日、
いつも来るカラスがきて、
くちばしをハサミのようにパカッとひらいたままにしていました。
閉じることなく終始ひらいたまま。
いかにも苦しそう。
暑いからか?
とも思いましたが、
もっと暑い日もあったのにどうしたのだろう?
わたしが気づかなかっただけか…。
家を出、
階段を下りたところのゴミ集積所へ向かったところ、
そこにカラスが十数羽集まっていました。
どのカラスもくちばしを
パカッ!
異様な光景。
一羽はブロック塀のうえに止まり、
これまたくちばしを
パカッ!
ノドの奥の奥まで真っ赤に見えます。
はじめて見ました。
なんだったんでしょう。
三日の夜、
横浜では大雨、洪水、雷雨の警報が発令されましたが、
その前兆を感じてのことだったのでしょうか。
夢にでてきそうな
ふしぎな光景でした。

 

・なつかしや浜の朝練秋の風  野衾

 

択びと並び

 

伊藤博の『萬葉集釋注』は、
歌を個々別々に解説するのではなく、
歌群としてとらえ、
なぜそういう並びになっているのかを説いている
ところに特徴があるわけですが、
そのことをとおして、
知識として知っていただけの万葉集の
いわば編集のワザが見えるようで、
具体的には大伴家持の貢献が大なようですが、
あらためて、
編集の仕事の意味を考える
いいきっかけになりました。
これからは、
万葉集の編集のワザを仕事に生かすぞ!
なんちゃって。
それぞれの歌は、
すぐれているから万葉集に採録されたわけでしょうけれど、
並びの妙とでもいったものにより
万葉集の輝きはさらに増したとも言えそうです。

 

・あいさつのひとを知らざる墓参かな  野衾

 

読書百遍

 

或る時私は先生より、
「あなたは和漢三才図会をよんだことがありますか。」
と聞かれ、
何気なく「読みました」と答えた処、非常に叱られた。
その際先生はこう云つた。
「今の人間は本の数さえ沢山よめばそれでよいと思つているが、
それでは本当のことはわからん。
三才図会のようなよい本になると、
一通りや二通り読んだゞけでは駄目です。百ぺんでも二百ぺんでも読んで、
生きた人間にあてはめて見て、
わからん処のなくなるまで読まねばなりません。
あなた方の読んだというのは、それは本当に読んだのではない。
ただ眼で見たゞけに過ぎない。」

 

むかしのひとは、こうやって本を読んだのでしょう。
代田文誌著『沢田流聞書 鍼灸眞髄』(医道の日本社、1941年)にでてくることば。
先生とは、
昭和の鍼灸名人・澤田健。

 

・おほなゐを録すばせをや蚶満寺  野衾

 

三才の治療法

 

きのうの日曜日、弊社事務所にて、
朝岡鍼灸院院長の朝岡和俊さんとわたしとで対談を行いました。
「知識と経験と勘――鍼灸の世界」
当初考えていた題は
「言葉と言葉以前――鍼灸の世界」
でしたが、
数週間前わたしが療治してもらっている途中、
朝岡院長の発したことばが
鍼灸の世界をはっきり言い当てている気がしたので、
変更させていただきました。
対談がはじまる前、
0.9ミリの鍼がついているシールを
肩の凝る社員が貼ってもらったところ、
あ~ら不思議、
痛みが取れていることに三人とも驚いている様子。
鍼灸は、
天・地・人の三才のなかで生かされていることを感じさせてくれる、
全体性の治療法で、
のびのび大らかな世界です。

 

・ひぐらしや子らと物の怪遊びをり  野衾

 

パソコン顚末

 

自宅のパソコンがインターネットと接続できなくなった
かと思いきや、
まるで機械に遊ばれてでもいるように、
いつの間にか直っていた
かと思いきや、
家人が訪問キャンセルのためNTTに連絡したところ、
やはり不具合は生じていたらしく、
同じマンションのほかのひとからも知らせがあり、
共用の設備を修理したとのこと。
はあ、
なるほど。
ということは、
やはり不具合には原因があって、
必要な対応も然るべくあったということになります。
機械音痴のわたしも納得した次第。

 

・盂蘭盆会鳥海山は雲に入る  野衾

 

ふざけ機械

 

自宅のパソコンがインターネットと接続できなくなり、
こまり果て、
家人がNTTに連絡し、
かかりのひとが来てくれることになりました
ので、
いったんそのことを忘れて帰宅するや、
家人が
「パソコン見てみて」
と言いますから、
ひょいととなりの部屋を覗くと、
あ~らら、
ふつうにつながっているではありませんか!
「あなたが直したの?」
「いや。ひょっとしたらと思って立ち上げたら直っていた」
へ~。
分からないもんだ。
でもよかった。
まったく人騒がせなふざけ機械だよ。

 

・三河湾旭日とともに秋に入る  野衾