自転車

 

・蜘蛛のごと道を這ひずる落葉かな

 

家を出て保土ヶ谷駅を遠くに臨む坂道を歩いていたとき、
わたしを追い越して自転車が
ゆっくり坂を下りてゆきました。
いまは電動アシスト自転車が多くなりましたが、
ふつうの自転車でした。
バランスを取りながら、
ゆっくりゆっくり下りてゆきます。
それを眼で追いかけているうちに、
両脇の補助車を外して乗った子どもの頃のことが
不意に蘇りました。
こわごわ
ワクワクドキドキして。
もう何十年も乗っていませんが、
きっと乗れるでしょう。
体は忘れません。
歩いているときとも
走っているときとも
バスに乗っているときとも
汽車に乗っているときともちがう、
あたらしく
いま生まれたような景色、
嬉しくて、
はしゃぎたくて
わけもわからず泣きたいような、
父と母に別れを告げるような、
たとえばそんな気持ちで追いかけた。
自転車に乗ると、
いつも風景があたらしかった。
体はずっと忘れません。

 

・ピエロとや銀杏落葉の音かなし  野衾

 

夢であいましょう

 

・逆立てる羽に埋もる冬の鳩

 

山の上の高校に向かっていた。
とうに卒業しているはずなのに、
なんの用事か。
K君も歩いている。
前の職場でいっしょだったK君がぼくの高校になんの用事だろう。
家からだったのか、
途中から合流したのか、
九十八で亡くなった祖父までが…。
三人そろって、
お堀端にあるパチンコ店に入った。
祖父とK君の間に挟まれ椅子に腰かけた。
千円、また千円。
二分とかからない。
この台は遊ばせてもくれない。
おもしろくない。
席を立った。
K君もダメなようだ。
祖父ももちろんダメだったが、
立ち上がろうとはせず、
わたしから少しおカネを借りようとする気配なので、
仕方なく、
財布から二千円をだして祖父に渡した。
「ありがとう」と言って、
祖父は自分の財布をだし、
渡した二千円をしまい込むのだった。
そのとき、
祖父の財布には
五千円札が一枚しのばせてあった。
五千円あるのなら、
なにもぼくから借りなくてもいいのにと思ったが、
そのことは言わずにパチンコ店の外へ出た。
祖父の性格を考えた。
わたしが貸した二千円をなくし、
五千円札にまで手を付けたら、
祖父は家に帰れなくなってしまう。
いや、そこまで使うことはないだろう。
わからない。
きょうはいいことあるだろうか。
曇っていくようなのだ。

 

・冬の空どこ吹く風のこころかな  野衾

 

光陰如箭

 

・昼の蚊を探して二日漱石忌

 

月に一度句会を開いている大佛茶廊に
軸がかかっており、
今回は「光陰如箭」
こういんじょぜん。
光陰箭の如し、箭は矢。
軸をよく見ると
「光陰」と「如箭」を分けるように
箭(矢)の絵が描かれていて、
おもしろい。
いわゆる上手い書ではないかもしれませんが、
味という点では深い味があり、
つい見入ってしまいました。

 

・枯蟷螂かしら微かに動きけり  野衾

 

さろう句会

 

・干鮭(からざけ)の裂けたる腹の赤さかな

 

鎌倉ゆかりの作家・大佛次郎がかつて所有していた建物が
そのままのかたちで現在カフェになっており、
月に一回そこで句会を催しています。
今月は六人の参加。
十三回目となりました。
ひとり二句の雑詠で、
欠席者のものを含め投句は十八。
そのなかから
自作を除外し、
これはと思うものを五つえらび、
そのうちの一句を
特選とします。
わたしも二句投句しましたが、
上の「干鮭~」の句がトップでした。
もう一句は、
ふたりがえらんでくれたものの、
さほど点は集まらず。
点数がすべてではないとはいえ、
えらんでもらえると
素直にうれしく、
さらにがんばろうという気になります。

 

・吹かるるや重さ失くして落葉かな  野衾

 

ハイタッチ

 

・子らもなし無限の冬の銀杏かな

 

朝、
本町小学校横の階段を上りきり、
横断歩道を渡って直進、
左に折れると間もなく教育会館が見えてきます。
出勤するひとたちでしょう、
何人も坂を下りてくるなかに、
あら、
クロネコヤマトのおねえさん。
きりりとした顔ですっすっと歩いてきます。
右手を挙げ「おはよう」
「あ。おはようございます」
おねえさんとハイタッチ。
やわらかく小さな手ながら、
少しカサついて。
さてと。
しごとしごと。

 

・時雨にていつのしぐれと眺めける  野衾

 

光る十円玉

 

・紅と黄と青とみな燃える冬

 

仕事帰り
桜木町駅の川村屋を見ると、
朝の「青汁売り切れました」の赤い紙に代わり
「青汁販売中」の緑の紙が。
(青汁といっても実際は緑色をしているので紙も緑なのでしょう)
さっそく店内に入り、
自動販売機で260円のチケットを購入すべく、
千円札を投入すると、
じゃらじゃら落ちたつり銭が
光っているではないか!
ん!?
手に取ってみると、
十円玉四個に平成二十九年の文字。
川村屋のおばさんに、
「おつりが、ほら」と言って見せると、
「あら。きれいだこと。なにかいいことあるかもね」
「そうかもね」
作りたてのコインが人の手から
人の手にわたって、
手垢であんなに黒くなるかと思ったら、
それもまた驚きで。

 

・青をもて澄みわたりゆく冬の空  野衾

 

句会は楽し

 

・見上げればなんの俤冬の月

 

この日記に俳句を書くようになって
八年ぐらいになりますが、
ひとりでやっていると
どうしてもマンネリ化しがち。
句会に参加することで程よい刺激が得られ、
また、
ほかのひとの句から
いろいろ勉強させられます。
来年はもうひとつ句会が立ち上がりそうなので、
これまた楽しみ。
鮨店にて鮨を頬張りながらの句会、
なんともぜいたくなことです。

 

・小春日のこの世の果ての青さかな  野衾