パンジー

 

・春眠の味を楽しむ朝ぼらけ

自宅近くの階段そばに一軒の家が建っており、
玄関先にいつも鉢植えの花が咲いています。
四つの鉢に別々の花が植えられてい、
こちらが終わればあちら、
あちらが終わればまたこちらと、
すべての花が終わっているということがありません。
いずれかの鉢の花が咲いています。
先日初めてそこの奥さんと立ち話をしました。
とても喜んでおられました。
今はパンジーが満開。
パンジーのあの模様をじっと見ていると、
だんだんひげを生やしたおやじの顔に見えてくるから不思議。

・春眠や覚めての後の時の砂  野衾

レモン水氷っこ入り

 

・鶯や一番鶏のごとく鳴く

水筒に水と氷を入れ、
生のレモンを絞って持ち歩いています。
人工の匂いに過敏になっているせいか、
香料入りのものが苦手。
会社が入っているビルの係にお願いしたところ、
トイレの芳香剤を無香料のものに
速攻替えてくれました。
ありがたし!
問題は化粧品の匂い。
これはもうどうしようもなく、
マスクで防御するしかなさそうです。

・ふるさとのカッチ山まで霞む頃  野衾

昭和は遠く

 

・田舎駅待合室の春日かな

面白いCDを見つけました。
『春日八郎「三橋美智也を歌う」』
これは聴かずにいられません。
おんな船頭唄、石狩川悲歌、武田節、
リンゴ村から、哀愁列車、古城、センチメンタルトーキョーなどなど。
三橋が歌う時よりテンポを遅くし、
キーも少し下げて歌っているようですが、
いやはや、
これはたしかに春日八郎の歌の世界。
三橋の声がやさしく包み込むような抒情なら、
春日八郎の声は実直な抒情
とでもいえようか。
ことばは意味を持っていますが、
このふたりの声は、
「はあああ」と発しただけで、
色や風景まで見えてくるから不思議です。
昭和は遠く。

・色づきていよよ父なる山笑ふ  野衾

神奈川新聞

 

・田舎駅笑顔ばかりの春日かな

3月19日(日)神奈川新聞「ブックカバー」のコーナーで、
拙著『石巻片影』が紹介されました。
書いてくださったのは自転車記者こと佐藤将人さん。
書き手の意図を深く汲んでくださり、
世界遺産だけが遺産でないことを
改めて思い知らされます。
百年にひとりといわれた教育者斎藤喜博は、
授業とは、
文化を子どもたちに渡すことだと喝破しました。
だれからとは確定できないけれども、
物心ついてから教わってきたもろもろのうち、
震災後にも朽ちないものはあるはずです。

・大鳥の溶けゆく先や春の雲  野衾

知多半島

 

・ブレス切れ転がり帰る春の海

十年にはなりませんが、
それにほどちかく、
知多半島に宿をとったことがありました。
病を得て、
七転八倒の末、
ようやく快方へ向かうか
と思われた時期で、
わたしは家人とふたり、
朝の爽快な気を吸うべく、
浜辺に下りゆっくり気功を始めたのでした。
と、
ぷちっと音がし、
目を開けると、
スギライトのブレスレットの糸が切れ、
紫色の石が砂浜に散らばりました。
白い砂の上に紫の小さな石たち。
拾おうとすれば
拾えたのですが、
ぱあっと散った紫色の石たちを見ているうちに、
そうか帰りたいのか、
と思われ、
海の水に引かれていくままにしました。
ときどき思い出します。

・三々五々公民館の春うらら  野衾

よき眠り

 

・三月や野中の電車ぴーぽっぽ

行きつけの鍼灸院の先生曰く、
「ほとんどの病気は、眠れば治ります」
ずいぶんな極論とも思われますが、
考えてみれば、
眠れるということは健康の証。
どこかに不具合があると、
眠りたくても眠れません。
深い眠りは日々のクスリ。
そうなると、
掛け布団、敷布団、シーツ、枕が重要になってきます。
深く眠った後の目覚めは、
雨をたっぷり吸いこんだ大地のように、
いのちの芽吹きを促してくれます。

・姿より匂ひ先来る沈丁花  野衾

週刊朝日

 

・春の風仕事忘るる心地せり

今週発売号の週刊朝日コラム「暖簾にひじ鉄」で
内館牧子さんが
拙著『石巻片影』を取り上げてくださいました。
「無力な子供たち」というタイトルで、
拙著の中から、
ツバメの子を撮った写真と文章、
石巻グランドホテルのロビー前でたたずむ少女の写真と文章、
その二つを具体例にし、
ちかごろ東京都昭島市で起きた凄惨な暴行事件と重ね、
「ヘルプレス(=無力)な人間の子は、
人間に育てられて初めて人間になる」
と結ばれています。
拙著に収められた写真はすべて橋本照嵩さんによるものです。
ありがたかったのは、
「多くの方々は「石巻」と聞くだけで、
震災からの復興の本だなと思うだろう。
そうではあるのだが、そうだとも言い切れない」
の文。
この震災は千年に一度ともいわれました。
それならば、
物心ついてから見聞きし、
学んできたことが、
この度のことと対峙し得るのか、
吹っ飛んでしまうのか、
吹っ飛んでしまったのなら、
また一から学び始めよう、
そのことを考えていたからです。
週刊朝日と併せ、
拙著を読んでいただければ嬉しいです。

・地下鉄や車中花粉の鼻爛漫  野衾