ふり返る朝

 

定期検診のため、家の近くにあるクリニックへ行った帰るさ、
てくてく歩道を歩いていたときのこと、
こちらへ歩いてくる一人の女性があった。
あ!
いくつぐらいだろう。
八十にはまだ届いていないのかもしれない。
そんなふうに意識にのぼったのは、
女性がなんの気なしに、
歩道と車道の境い目のブロックを踏み、四、五歩、歩いたからだ。
女性の口元は、
気持ち微笑んでいるようにも見える。
すぐに歩道の中央へ戻りわたしとすれ違う。
どうしていま端のブロックを歩いたのか、尋ねてみたかった。
天気がいいし、
なんとなく嬉しくなったのかな。
いや、とくに何ということはなかったのか。
ことばを選んで尋ねようか。
それでもやっぱり驚かせてしまうだろうか。
わたしは立ち止まり、
ふり向いてしばらく女性のうしろ姿を目で追った。
子どもがよくやるブロック踏みを、ひとり歩きながら、思いついて四、五歩、
のこころを想像し、ほれぼれした。
気分をよくし、百八十段ある階段に向かった。

 

・うららなる朝の歩道の四五歩かな  野衾