以前勤めていた出版社にちょうど十年いました。
その間に習い覚えたことが、いろいろな面で今につながっています。
社長は、いくつかの職種を経て出版社を起こした人で、
仕事とは何か、働くとは何か、
をつねに考えているようなところがありました。
印刷や製本にかかわる人へ社長が書いた指示書をあるとき見せてもらった
ことがありますが、
それを見、読んだ人がもしミスするとしたら、
それは、
指示した側でなく、
明らかに指示された側のミスであると考えざるを得ない、
そういう徹底した指示書で、
驚きました。
ミスするときの人のこころへの洞察があった
と思います。
社長の発したことばで憶えているものに、
「仕事を時間で割ってはいけない。時間を仕事で割りなさい」
があります。
大切な訓えであると、今もときどき思い出します。
アレもしたいコレもしたい、
ということがあれば、
仕事に割ける時間は限られてきます。
そうすると、
目の前の仕事を何時間でこなせるか、
というようなアタマの働き方になってしまいがち。
そんなとき、何をどう考えるか。
考えなければいけない問題、工夫は、一つではないと思います。
残業すればいい、
というものでもないでしょう。
仕事とは何か、働くとは何か、余暇とは何か、自分とは何か、人のこころはどうか。
ほかにもいろいろありそうです。
そうだ。
月一回のペースで行われていた宴席で発した社長のことば
も忘れがたく憶えています。
「あたながたは、文学とか芸術とかを深いと思っているかもしれないけど、
仕事もけっして浅くない。
音楽や美術や建築と同じように深いものだと思う。」
・四月来ペンキぬりたてペンキの香 野衾