本の手ざわり

 

これも加齢によるところ大の気がしますけど、
物に触れたときの感触、
また、
それによって引き起こされる気持ちのあり様が以前と比べ、
すこし変化してきたようです。
指紋の山の出っ張りが取れ、
山があるにはあるけれど、
だんだん平らに近づいているとでも申しましょうか、
それと関係があるか、
ないか。
定かではありませんが、
ともかく変ってきた。
本を読む際に、内容はもちろんですが、
若いときから、おおむね、少しざらついた紙の感触を楽しんできました。
すぐに思い出すのは、
中村吉治さん編著の『村落構造の史的分析――岩手県煙山村』。
わたしが読んだのは、
御茶の水書房版だったと記憶しています。
表紙が藁みたいな手ざわり、
日本経済史のゼミにいたこともあって、
おもしろかったけど、
あの藁みたいな表紙の感触は、
内容をはるかに超えて好きだった気がします。
本を読むとき、
手ざわりはとっても大事、
このごろ、とみに感じるようになってきました。
筑摩書房から出ていた箱入りの臼井吉見さん著『安曇野』もたしかそうだった。
ところが、
このごろ表面がつるつるの
PP(ポリプロピレン)加工された文庫本が、
あれ!? この感じ悪くないな、
と思えてきた。
そのときの気持ちをいえば、
エスカレーターの横のベルトをつかんだときの少し冷んやり
とした感触に近く。
指紋が取れてきたので、
じぶんのからだ以外の物との密着度が高まった、
そんな気もし、
文庫本を手にしているとき、
とくに、
左の片手で持って読んでいるときの感触が若いときと明らかに
ちがっている。
このごろの小さい発見です。

 

・さざなみのひかり四月の三渓園  野衾