従わぬことと逆らうこと

 

ヨハネが答えて言った。
「先生、あなたのお名前を使って悪霊を追い出している者を見ましたが、
私たちと一緒に従って来ないので、やめさせました。」
イエスは言われた。
「やめさせてはならない。
あなたがたに逆らわない者は、あなたがたの味方なのである。」
(聖書協会共同訳『聖書』「ルカによる福音書」第9章49-50節、2018年)

 

ヘレン・ケラーとアン・サリヴァンのことは、
本を読み、映画を観、
竹内敏晴さんが演出した舞台も観ましたが、
とくに、
竹内さん演出の『奇跡の人』のなかで、
サリヴァン先生が教え込んだもろもろのすべてを
ヘレンがめちゃくちゃに放擲し、
暴れ、
元の木阿弥になったか、
とも思えた出来事のあった翌朝、
食事の席に着いていたヘレンは、サリヴァン先生が教えた通りではなかったけれど、
ナプキンをつけていた。
それを見て、サリヴァンは、
それでよし、
と思った。
一瞬の出来事だったと思います。
その後、ヘレンは、家族といっしょに、
静かに食事をする……、
というシーンがたしかあったと思います。
そのシーンについて、
竹内さんご自身、
どこかに書いていたと記憶していますが、
忘れられない場面です。
教師でも、親でも、指導者でも、
子どもや弟子が、
教えた通りにしていないときに、
「そうじゃないでしょ! どうして教えた通りにできないの!」
と怒鳴ったり、言ったり、
口にださなくても、
そんなふうに思ってしまうことは多い気がします。
教えた通りでないけれど、
そこにこめられている意味を感じて、
じぶんの行いを改めるとすれば、
それはそれで、
学んだことの証かもしれない。
サリヴァン先生が何も言わなかったことで、
ヘレンは、
じぶんの行為を受け入れてもらえたと感じたのではないか、
受け入れてもらえた、
とおそらく悟った。
人が人を受け入れることが「奇跡」なのだ
と、
竹内さんの舞台は、
語っていたように思います。
引用した聖書の箇所は、
知ってはいても、
これまであまり気に留めてこなかった文章ですが、
このところ目が行きます。

 

・金兵衛の婆さん丘に若菜摘  野衾