ぶり返し

 

 如月や三十年をひとまたぎ

二月も終りになって、いよいよ暖かくなり、
早咲きの沈丁花の香りに驚き、
ダウンジャケットを脱ぎ、
股引を脱いで、
春の態勢に入ったと思いきや、
今週はまた冬に逆戻りし、
外へ出ると吐息が白くなる日がつづいています。
三歩進んで二歩下がるみたいにして、
暖かくなっていくのでしょう。
会社の仕事は、今週来週が剣が峰。
集中して登りきろうと思います。

 股引を脱いだり穿いたりしている

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塞ぎの虫

 

 ふるさとの友と訛りを楽しめり

たまに塞ぎの虫がやってきて、
そのときは、
道の端をとぼとぼと歩くしかありません。
塞いでいるときは、
だいたい下か、斜め下を向いて歩いていますから、
クルマが来たら危険です。
ですから、端に寄って歩きます。
先日、道の端を歩いていましたら、
いきなり
ヘ~クショイッ!!
と、途方もない声が聞こえました。
ドキッとし、顔を上げ振り返って見たら、
そんなに年でもない女性でした。
その女性、ヘ~クショイッ!! のあと、
小声でチクショーとまで言ったかもしれません。
気が付いたら、わたしは少し笑い、
塞ぎの虫はしばらく鳴りを潜めていました。
女性はフルハウスに入っていき、
JR横須賀線の下り電車が轟音をたてて、
カーブを走り抜けていきました。

 道の端塞ぎの虫をくしゃみかな

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I君

 

 高架下頭刈って弥生かな

高校の同期で、陸上部でもいっしょだった
I君から会社に電話があり、
土曜日、保土ヶ谷の自宅を訪ねてきてくれました。
二十数年ぶり、三十年ちかく間が空きました。
学部はちがいますが、大学もいっしょ、
下宿も歩いて二、三分のところに間借りし、
しょっちゅう往ったり来たりの仲でした。
二人とも負けん気が強く、
ジョギングやビリヤードをするとき、
「これはあそびだから。ね。ね」と
お互いに確認して始めるのですが、
最後はいつも真剣勝負の様相を呈し、
一度など、ジョギングのはずのゴールが
短距離のフィニッシュみたいになり、
へたばって二人とも大学の講義を
サボったこともありました。
酒好きが嵩じて、一昨年、
I君はメタボの指定を受けたそうですが、
これではならじと心機一転、
自宅のある南浦和から東京までの二十数キロを
歩いたりしているそうです。
愉快な友達です。

 ふるさとの友ひさびさに春の宵

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シネコン

 

 もうもうと春一番の花粉かな

わが社のテラチーオカチーが
トップページに書いていたのを読み、
初めて知りましたが、
桜木町駅の改札を出て左手すぐのところに
間もなくシネコンが出来るそうです。
シネコン?
シネとあるから、映画館のことを今風にそう呼ぶわけね。
でも、コンてなんだ?
コングラチュレーションのコン?
コンフュージョンのコン?
コングロマリットのコン?
コンサイスのコン?
今度のコン? 今度、映画に行こうねー、なんて…。
そんなわけはない。
ウィキペディアで調べたところ、
シネコンとは、シネマコンプレックスの略で、
同一の施設に複数のスクリーンがある映画館のこと、
だそうです。複合映画館とも呼ばれるのだとか。
そういうことね。
コンプレックスというと、
心に傷があるみたいな感じがして、
映画がこわーい!!というような言葉かと思いきや、
心理的なこととは関係ないようです。

 我れの身にもいよいよ来たか花粉症

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高峰

 

 水温み街灯の下影ゆらり

来月三月は、月別刊行点数で
春風社始まって以来の記録を更新することになりますが、
十八点ともなりますと、
並みの緊張度、集中度では登りきれません。
余計なことをしたり考えたりする余裕はなく、
また、やっている場合でもありません。
教室で生徒をみるのと同じく、
個性的な子どもや物たちを
十把束一からげに見がちですが、
どの子どもも、どの本も、
それぞれに来歴があり
ユニークな個性と内容を湛えています。
静かな緊張がみなぎる空間を、
本づくりの劇場と呼びたくなります。

 春風やマンションドアを叩きけり

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読む工芸品

 

 水温みセアガゴゲグボ暗躍す

映画監督の大嶋拓氏と多聞君と三人で、
四月刊行予定の傑作戯曲『法隆寺』について打ち合わせ。
多聞君が、装丁は他のフライヤーとちがうと
自身の考えを開陳してくれ、
春風社の本の特徴が、
装丁の面から明かされた気がしてうれしくなりました。
たとえば、映画のチラシであれば、
映画館に人を呼び込むことでその役割が終り、
ショップのフライヤーであれば、
魅力のあるお店に人を運ぶことで
その役割を果したことになります。
ところが、そういうものと本の装丁は決定的にちがいます。
たしかに、装丁に惹かれて
本を購入することはありますが、
買われたことで装丁の役割が終るわけではありません。
内容と並行して、
その魅力が長く保持されていなければなりません。
中身の寿命と装丁の寿命が
いっしょであることが望ましいとも言えるでしょう。
買ってすぐ読む本もあれば、
何年も書棚に寝かせておいて、
なにかの縁で再び手に取り、
いよいよ腰を据えて読んでみようと思ったときに、
装丁が一時の流行を過ぎ、
冴えないものに感じられたらどうでしょう。
せっかく手に取ったのに、
気が萎えてしまわないとも限りません。
ということで、ヨコハマ経済新聞の記事とも併せ、
春風社の本はますます工芸品に近づくとの思いを
強く持ちました。

 寒さ脱ぎ胸いっぱいの天の風

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ヨコハマ経済新聞

 

 石投げし葉山二月をバリの風

新聞各社は、紙に文字が印刷された
従来型の新聞とあわせ、特定の記事を
インターネット上でも見られるようにしていますが、
このごろは、
インターネット上だけで見られる新聞というものが
増えています。
シブヤ経済新聞」から始まったネット上の経済新聞が
いまでは六十個ほどになっているようです。
「ヨコハマ経済新聞」は歴史から言っても
その代表格のひとつ。
それぞれの地域に住む人たちが、
自分の周りで起きている
旬の出来事を記事にしています。
自分たちの町のことですから、
おのずと愛情がこもるのでしょうか。
その「ヨコハマ経済新聞」に
春風社が取り上げられました。コレです。
京都出身で現在は横浜在住のライター森王子様
(玉子でなく王子)が
何度も取材に訪れ、写真を撮り、
厚い記事にしてくださいました。
森王子(玉子でなく王子)様、
ヨコハマ経済新聞の杉浦編集長始めスタッフの皆様、
ありがとうございました。

森王子(玉子でなく)
ヨコハマ経済新聞

 車輪来て天のため息水温む

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