鉢割り犯人

 お尻叩くな桃太郎が生まれるぞ
 月曜日出社したら、ベランダの鉢が割れ、辺りに土が散乱していた。前の日曜日、業者が入って床と窓の掃除をしたはずだから、その際、脚立に上がって作業をしていて、下りる時にでもグシャッと踏んづけたのかもしれない。毎日社員が世話をしていて、花にも鉢にも愛着があるけれど、割れたものは仕方がない。
 それにしても、メモも何にもなく、詫びの電話一つないというのはどうしたものか。割れた鉢を見ているうちに、だんだん腹が立ってきた。
 ビルの管理人に連絡し、その旨を伝えたらすぐに飛んできた。現状を伝え、清掃業者に連絡をとるように頼んだ。しばらくして、また管理人がやってきた。清掃業務に入る時に、鉢はすでに割れていましたと業者が言っているという。ここで、あちきの堪忍袋の緒は切れた。
 すでに割れていましただと。てめーが割らずにだれが割ったというのさ。前日の夕方、ちゃんとなっていて、休日はビル全体が休みで、てめーらだけがビル内に入ったんじゃねーか。え。それともなにかい、3階のベランダに縄梯子を掛けて侵入したこそドロでもいて、そいつが鉢を割ったとでも言うのかい。百歩譲って、「すでに割れていた」としてもだ。なんでそんな普通の状態でないことを、管理人、あるいは俺たちに伝えないのさ。言われて初めて「すでに割れてました」で済むか、馬鹿たれが!!
 というようなことを、管理人に言っても仕方のないことだが、むしゃくしゃしたので爆発した。業者にそう伝えてくれと言った。にもかかかわらず、いまだ、詫びの一言、いいわけの一言も言ってこない。とんでもねー野郎だ! ただじゃおかねえ!!

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エラ・フィッツジェラルド

 新緑や癒えぬ怒りをいかにせん
 このごろ、このCD(下の写真)をよく聴いています。
 わたしは、悪い癖だと思っているのですが、女性の場合、小説でも音楽でも、顔が自分の好みに合わないとなると、だいたい避けて通ってきました。だから、いくらいいと言われても、宮本百合子は読みません。田辺聖子もほとんど読まない。
 音楽で言うと、ビリー・ホリデーは聴く、アニタ・オデイは聴く、クリス・コナーは聴く、ダイアナ・クラールは聴く、といった具合。聴かないのは、サラ・ボーン、ダイアン・シュア。最たるものがエラ・フィッツジェラルドです。いや、でした。それなのに、このごろはサム・クックと同じぐらいの頻度で聴いています。
 顔について、どうでもよくなったというわけではありませんが、声を聴いているうちに、この人はよほど性格のいい人なんだろうなと、勝手に思ってしまいます。そうなると、けしてタイプではありませんが、親しみの持てる顔だなあと思えてくるから不思議です。
 性格の悪い人は声に出ます。意地の悪い人は、(タバコの場合もありますが)だいたい声がノドに引っ掛かるんですね。いい声の意地悪な人というのは聞いたことがありません。腹でなにかたくらむと声帯がしぼむとか緊張するとか、そういう体の反応があるのかも分かりません。
 とにかく、エラ・フィッツジェラルドの声、歌を聴いていると、いい気持ちになります。音量を大きくするとジャズボーカルの醍醐味を味わえますし、小さくすればしたで、子守歌のようにやさしく包んでくれます。

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松井冬子

 新緑や百年の夢覚めにけり
 いつものようにリモコンをカチカチやっていたら、聞き覚えのある声がながれてきた。吉行和子さん。チャンネルをそのままにしていると、顔の腫れていないお岩さんのような幽霊や内臓が飛び出した恐ろしげな人間の絵が映し出された。痛い痛い絵だ。すぐにチャンネルをかえようと思ったのだが、金縛りに遭ったみたいに、なんとなく見てしまった。
 松井冬子さんという人で、画面に釘付けされるほどの超美人。東大の上野千鶴子に「絵を描いていなければどうされていましたか」と訊かれ、「自殺していたと思います」と答えていた。よくぞやってくれたなど、多くの共感をもって女性たちに迎えられているらしい。共感されるということは、今の時代をとらえているということでもあろう。
 これを見たせいかどうかわからないが(たぶん、見たせいだろう)変な夢を見た。

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感慨一入

 テーブルを埋めつくし猪口獺祭
 一入と書いて、ひとしおと読みます。染物を一度染め液に浸すこと、が元の意味なのだそうです。そこから転じて、他の場合と比べて程度が増すさま、いちだん、いっそう、などの意味になったんですね。
 それはともかく、当社10年目にしてようやく税務調査が入りました。やったー!!
 ふつう5年とか7年ぐらいで来ると聞いていたのですが、全然来ませんでした。そうか、儲かってないから来ないんだな、そうか、そうか。と、ちょっとふてくされてもいたのですが、やっと来ました。来てくれました。
 会社として認めてもらったような具合で、ちょっぴりうれしい気分。しかも来てくれた調査員、女性。かつ若い。かわいい。髪、長い。きれい。スタイル、グー!! 脚、きれい、グー!! いい匂い、グー!! グーグーグー!!!
 ほんとに調査員なの? ほんとにほんと? 立ち姿なんて峰不二子そっくりじゃん!
 二日間の調査が終わって、帰ろうと立ち上がった彼女をつかまえ、
「お疲れさまでした。あのー…」と、声をかけました。
「なんでしょう」
「税務調査員を辞めて、民間の会社に勤める人というのは、いないのですか」
「税理士免許をとって独立される方はいますが、民間の会社に勤めるというのは、聞いたことがありません」
「そうですか。いや、仕事ぶりを拝見していまして、取次からの複雑でややこしい、分かりにくい書類を、よくぞ二日間でこれだけ理解できるものかと感心しました。それでなんですが、税務調査員を辞めて、ウチに来てくれませんか」
美人調査員、ニコッと微笑み、
「雇っていただけますか」
わたくし、鼻の下を伸ばして、首を縦に3回ほど振ったことは、言うまでもありません。
美人調査員、最後に一言、
「気持ちよく仕事をさせていただきました。部屋の真ん中で、こんな大きなテーブルで仕事をさせてもらったのは初めてです。ありがとうございました」ぺこりと頭を下げました。
 なるほど。考えてみれば、税務調査というのは、会社にとっては、あまりうれしくないことで、部屋の隅っこに追い遣られ、資料を見るのでも、前のダンボールを片付けて、次のダンボールを持ってきて開けて取り出して、みたいなことがきっと多いのでしょう。なるべく調査そのものにかかる時間を少なくしてやろうという会社の気持ちの現れでしょうか。わかります。でも、ウチはそれをしませんでした。なんででしょうね。したくてもできなかったというのが正直なところかもしれません。
 とにかく、そんなふうにしなかったおかげか、彼女からいろいろありがたい智恵を授けてもらうことができました。取次に対して持っていた積年の疑問も、彼女の言葉を通して明確になりました。今後の会社経営に活かしていくつもりです。
 部屋を後にする美人調査員の後姿の、なんとかっこ良かったことか。
 また来てほしいぐらいです。

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“気が合う”友だち

 足指でジーンズの穴裂きにけり
 天才りなちゃんとジャズのお話をしたことは、先日この欄に書きましたが、その後、りなちゃんのお母さんから連絡がありました。あんなに興奮しているりなを見たのは初めて、と。
 りなちゃんは、こんな風に言ったそうです。
「わたし、みうらさんとはきがあうわ。とてもべんきょうになった。もっとおはなしがしたい」
 大ウケしました。
 はい。わたしも、りなちゃんと気が合うと思います。
 りなちゃんは、今月小学一年生になったばかりです。

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たてつづけに

 桜散る新宿西口交番前
 一昨日、横須賀線の電車を横浜で降り、京浜東北線に乗り換えようと階段を上ったら、ホームが人でごった返していた。端に立つのは危険と思われた。
 アナウンスがあった。
「間もなく3番線に京浜東北線、大船行きがまいります。押し合わずにお乗りください。たてつづけに、京浜東北線、磯子行きがまいりますので、そちらもご利用ください!」
 アナウンスする駅員の気持ちがあからさまに出ていて、ホームに充ちる緊張感とは裏腹に、笑ってしまった。本当に、急いで乗ろうとして、人を押しでもしたら危ない。すると、また、
「間もなく3番線に京浜東北線、大船行きがまいります。押し合わずにお乗りください。たてつづけに、京浜東北線、磯子行きがまいりますので、そちらもご利用ください!」
さっきよりも少々声が上ずって。たしかに。気持ちはわかる。
 へーっくしょい こんちくしょうの花糞かな

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5+1枚刃

 宿便がどっぷり落ちて春が行く
 わたしは、ふだんジレットの3枚刃の髭剃りを使っているのですが、替刃がそろそろなくなり、いつものスーパーに行きました。そうしたら、ジレットからなんと5枚刃の髭剃りが新しく出ていました。
 以前、ほかのメーカーから4枚刃のが出たとき、さっそく買って試してみたのですが、刃の枚数が多くなって、たしかに切れ味はシャープに、剃り心地は滑らかになっていましたが、鼻の下などが剃りにくいという難点がありました。枚数が多くなった刃というのは、ちょうど下駄の足か、赤塚不二夫描く『おそ松くん』のイヤミの出っ歯のような状態なのです。刃の枚数が多くなることは、それなりに問題点もあるのかと合点がいき、また元のジレットの3枚刃に戻しました。
 ジレットは、この問題をどう解決したか。それが+1の秘密です。
 商品についている説明(はい! わたしは、その説明を見て納得するところがあり、さっそく購入しました)によると、「替刃に隠された秘密! 替刃裏側に装着されたピンポイントトリマーであごの下、鼻の下、もみあげなどの剃りにくい個所を簡単に仕上げられます」とあります。さすがジレット!! 痒いところに、いや、剃りにくいところに刃がとどく憎いヤツ、なのであります。
 わたしは肌が弱いのか、毎日髭を剃ると、いくらていねいにやっても痛くてかないません。週に一度、ある程度伸びたときに剃ると、きれいに痛くなく剃れるのです。
 ところが先日、上田薫先生の米寿を記念するパーティーがあって、新宿まで出かけなければなりませんでした。髭を剃ってちょうど中二日、胡麻塩髭がぶつぶつと出てきたところでした。こういうときが一番みっともなく、だらしがありません。いつもなら、それを承知でさらに伸びるまで待つのですが、パーティーに不精髭で出るわけにも行かず、良い機会とばかりに、ジレットの5+1枚刃を試してみました。
 すると、どうでしょう。この長さの髭の状態でこれまで味わったことのない剃り味。しかも+1枚の刃によって、鼻の下の直角の場所もスムーズに剃り上げられているのです。素晴らしい!! 気持ちいい!!
 というわけで、長く愛用してきたジレットの3枚刃をやめ、これからは5+1枚刃で行きます。

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