眠気のトンネル

 丘のうへ春を誘ひしブーケトス
 番組収録のインタビューに答え、三時間半ほとんど喋りっぱなしで、自分ではそれほどと思わなかったが、かなり疲れていたようで、きのうは昼食後、眠くて眠くて仕方がなかった。
 だいたい午後一時間ほどは眠気がつづき、原稿を読み始めたら二分ともたず、ネットのニュースを目で追っても同じ行を二度三度、それならと、好きな夏川純のブログを開いてもやはりダメ…、となるともう諦めて目を瞑るしかないのだが、きのうは眠気のトンネルがいつもの倍。どう足掻いても抜けられなかった。
 三時を過ぎ柿茶と温泉饅頭をいただいて、やっと眼が覚めた。
 沈丁花かほりに宿す青葉城

49adb0ed4e311-090226_1042~0001.jpg

二十二年ぶり

 花嫁の父の足取り水ぬるむ
 テレビ取材のクルーの方が番組で使いたいというので、写真に写っている生徒に連絡を取るのに、まずは以前勤めていた高校に電話をしてみた。
 事務の方に事情を話したところ、二人のうちの一人の連絡先は知っているという。教えてもらった番号にさっそく電話。ケータイに出た声は独特の高音で、すぐに彼女とわかった。せんせー、ひさしぶりー、……。
 写真のもう一人とは高校時代からずっと、今も付き合いがあるとのこと。番号を教えてもらい、電話した。もしもし。はい(こちらは低音)。○○さんですか。みうらです。せんせ? せんせーなの? 声は二十二年前とちっとも変っていない。
 目の前に写真を置いて話していると、二十二年前のそのときの二人に話しているような錯覚に囚われる。取材のことがなければ、この二人と話すこともなかっただろうと思ったら、不思議な気がした。
 夜、テレビをつけたら、日本経済大学の先生が「偶然ベタの若者」という題で話をしていた。偶然と思えることの豊かさ、それに意味を見出すことの喜びと意義、大切さ…。
 一日一日のちょっとした出来事が、大いなる世界の影にまもられ、響き合っているのだと思った。
 風船を見上ぐ人らの顔透けり

49ac54755f772-090214_2021~0001.jpg

六時三〇分

 あと五分春眠あかつき五〇分
 普段の目覚まし時計の設定時刻です。とくべつの用事があるときは、六時だったり七時だったり。
 目覚まし時計といっても、鈴が二つ頭についたものではありません。ケータイはほんとうに便利ですね。
 目覚ましの音楽は、ジョージ・ベンソンのギブ・ミー・ザ・ナイト。朝なのに、夜をくれ(!?)
 三月に入っても、朝は室温十六度と、数字的にあまり変化が見られませんが、自然は刻一刻と春に向かっているようで、体も自然の一部なのですから、このごろなかなかパッと起きらせません。はい。言い訳です。
 バッキャ見てお前だれかとフキノトウ

49ab134fdd60b-090207_1433~0001.jpg

採点

 底意地の春を金壺眼かな
 このごろ持ち込まれる原稿で、小説もかなりな数ある。受けるにしても断るにしても、仕事柄ちゃんと縦横斜めに(?)読む。
 学術的な論考なら、そんなわけにもいかないが、こと小説の場合、頭でいろいろ考えるよりも、からだで、からだがどう反応するかを最大の価値基準にしている。
 というと少し、いやかなり大げさだが、要するに、読んでいて眠くなるかならないか。眠くならなければ、相当のもの。眠くなったらペケ。
 この季節、ほんとにうららかで、昼の食事をした後などは、なんだかとっても眠くなる。一行の中に、たとえば「白い襟足が…」なんてあると、眠い頭が勝手に作動し、襟、襟、えり、えり、エリ、エリ、エリカ、沢尻、沢尻エリカは40代の男性と結婚したあと、スペインに留学するとかでまったく結構、結構、結構毛だらけ猫灰だらけ、ケツの周りは糞だらけ、粋な姐ちゃん立ちしょんべんとくらあ…、なんてことが、ぐるぐるぐるぐる頭の中を回転し始める。そうなると、気の毒なのは、そのとき読まれていた小説原稿で、この季節でなければ、ひょっとしたら眠くならずに読み通せたかもしれない。
 そんなわけで、春はどうしても小説への採点が辛くなる。
 中華鍋中華オタマや春うらら

49a71946d6600-090226_1122~0001.jpg

気のパワー

 水ぬるみ重馬場馬の目濡れてをり
 先日、土曜日の横浜気功教室でのこと。吐納気法のコースに参加していました。わたしは二回目になります。
 たっぷり蠕動(じゅうどう)した後、全身リラックスし互いの気を感じあうということになり、両腕を前に出してパラボラアンテナよろしくゆっくり左右に回転します。左横の白髪の女性が、わたしに、あ、あなた… と絶句。目で尋ねると、凄い気を発しているとのこと。
 また、その次の週、今度は近くの人と向き合い、互いの気を引っ張ってみようということになりました。隣にいた背の高い女性にやると、あ、あ、あ、あ、と微妙な声を漏らしました。気が抜けていく感じがするというのです。
 一日も欠かさず練功したおかげで、気のパワーが充実してきたようです。
 自宅のパソコンがフリーズしたとき、もしやと思って、パソコン本体に気を送ったら、数分でフリーズが融け、正常に動き出しました。ほんと、ほんと。
 皆さん、パソコンがフリーズしたら気を送ってみましょう。(笑)
 昼過ぎて尚春眠の小説稿

49a5cad51cde5-090225_1233~0001.jpg

ケータイ

 金壺に寒毒湛へて生きにけり
 けたたましい音で目が覚めた。枕元のケータイが鳴り、あわてて通話ボタンを押した。
「はい」と電話にでるのと目覚まし時計の針を見たのがほとんど同時。1時23分を回っていた。
「みうらちゃん? みうらちゃんなの?」
「そうだよ。ゆいちゃんか? 久しぶりだね。いま、仕事の帰り?」
「そ。みうらちゃん、からだ大丈夫? 元気なった?」
 相当酒が入っているようだ。
「ん。どうして俺のからだのこと知ってるの? ずいぶん有名になったもんだよな」
「なに言ってるの。みうらちゃん、こないだ、自分で言ってたじゃないか。おっかしいみうらちゃん」
「そうか? そうだったかな。ところで、ゆいちゃん、元気そうじゃないの」
「みうらちゃん、元気になってよかった。わたしは元気だよ。家のほうでいろいろあったけど、今は落ち着いたよ。元気になって頑張って生きているよ。だから、みうらちゃんも頑張って!」
「ああ、ありがとう。またそのうちお店に行くよ」
「うん、ありがとう。お店変ったんだよ。ママと一緒に辞めちゃった。今は別のお店。でも、ケータイの番号はおんなじだから、来てくれる気になったら電話ちょーだい」
「わかった。はたちの娘じゃないんだから、あんまり飲むなよ」
「わかってるよみうらちゃん。みうらちゃんも、からだ、気をつけなよ。じゃ、またね」
「ありがとう。ゆいちゃんもからだに気をつけて。じゃ、またな。電話ありがとう」
 思わぬ人からの久しぶりの電話だった。
 ゆいちゃんは源氏名。夜の仕事をしている。数年前、やはり夜中に、客に馬鹿にされたといって泣いて電話をかけてきたことがあった。一流大学を出たからってなにさ。わたしがあいつに何をしたっていうんだ。悔しいよ、みうらちゃん。世界中を回ったからって、なんなのさ。英語が話せりゃえらいのか。フランス語が話せりゃえらいのか。悔しいよお! わたしはどうせ馬鹿だよ。だけど、なんであいつにあんなことまで言われなきゃならないのさ。そうだろ、みうらちゃん。えーん。えーん。えーん。えーん(号泣)ゆいちゃんの怒りは、なかなか収まらないようだった。
 一時間ほど彼女の怒りに付き合って、ようやく嗚咽も小ぶりになった。ゆいちゃんは、最後に辞書が欲しいと言った。客に馬鹿にされないように、国語辞書が欲しいのだと。なるべく単語がいっぱいの。
 翌日、インターネットで検索し、古本の『大辞林』を求め、宅配便で彼女の自宅に送った。後日、辞書の代金と送料が普通郵便で送られてきた。お金はティッシュにくるんであった。
 春の田のむんむん蒸されし堆肥かな

49a478bbc9908-090214_2022~0001.jpg

二回転

 花粉症なみだなみだの競馬かな
 夜の八時に来客の予定があり、腹が減っては十分な打ち合わせができまいと考え、雨に濡れた暗い坂道を下り太宗庵へ。
 道の途中、女将さんにばったり。
「これからお店に行くところですよ」
「そうですか。どうぞどうぞ、わたしもすぐ戻りますから」
 客がちょうど途切れる時間帯なのか、お店には大将のみ。ワカメうどん大盛り餅入りをたのむ。ほどなく女将さんが帰ってきた。
 ダシの利いたうどんをいただきながら、三人、料理作りの話で盛り上がる。とくに大将の鰹ダシの話は面白かった。
 修業していたころ、なぜ厚手の鰹節を使うのかが分からなかった。薄手のものより厚手のもののほうがコクが出るとは知っているけれど、それならもっと煮出したらいいではないか。ところが、煮出したのでは、鰹の風味が主張しすぎる。厚手の鰹節を入れ、二回転したところで、さっと取り出すとちょうどよい。二回転。先人の知恵というのは、すごいものです…。
 男性客が三人入ってきた。
 勘定を済ませ、話のお土産を携え、もと来た坂道を上った。
 目と肩と硬い絆の痛さかな

49a32c1387efe-090205_1600~0001.jpg