愛は

 肩寄せし二人眠らず熱暑かな
 湘南新宿ライン車中でのこと。向かいの席に若き日のバルバラ風の美女が座っていた。電車というのは、たまにこういうことがあるものなのですね。
 バルバラ風の美女は少々疲れている様子。それがまた彼女の美しさをいっそう引き立てているようでもあった。美人というのはなんにしても得です。足下には大ぶりのトランク。
 彼女の隣はといえば、わたしと同じか少し年下ぐらいの男性で、いくら冷房が効いているとはいえ、この暑さの中、バルバラ風の美女を右手でグッと自分のほうに引き寄せ眼をつぶっているのであった。バルバラ風の美女はそれをどう思っているのだろう。わたしは少々興味を覚えた。
 こんなに暑いのになんで寄り添ってくるのよ。肩まで抱いて…。と、そんなふうに思っているのかと最初は思った。ところがどうもそうとばかりも言えなそうなのだ。嫌がっているふうではない。ときどき、胸を開くようにして凝りをほぐす仕草を見せるものの、暑苦しい男の手を払い除けることはしない。ばかりか、たまにはなんと男の胸のほうにしなだれかかったりもするではないか。わたしは分からなくなって、もうどうでもよくなってきて眼を閉じた。ひょっとしたら、男もバルバラ風の美女の真意を計りかね、それであんなに強く抱き寄せていたものか。もう、本当にどうでもよかった。
 肩寄せし愛に暑さが勝ちにけり
 居眠りの瞼の裏の西日かな

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