梅雨どきですが、この季節の朝もなかなかいい。みずみずしい(そりゃ梅雨だもの)というかなんというか、なんかこう、細胞の一個一個に適度な水分が補給され、みたいな…。
 むかし秋田の実家で馬を飼っていたとき、朝もはよから父は草刈りに出かけ、わたしたちが起き出す頃には帰ってきて、たっぷり水分を含んだ草をドサリと馬小屋の前に下ろしたものだ。もやもやと蒸気が昇る。それを馬が食む。こめかみから頬にかけての血管を浮き立たせ、見ているこっちまで顎が疲れそうなぐらいの勢いで上顎と下顎を臼みたいに擦り合せるのだ。草食動物が目の前にいた。わたしの家の馬だ。馬小屋からは延々蒸気が立ち昇っていた。そういう風景が不意によみがえる。
 首から肩にかけての線、圧倒的な尻と腹、無駄のない筋肉、まるでいのちの爆発に触れるよう、息苦しいぐらいの戦慄が走った。
 「わすれものねがぁ〜?」「いってきまぁ〜す!」