馬鹿ていねい

 「お使いになっているパソコンの背面に貼られているシールに記載されている製造番号を御教示賜りたく何卒よろしくお願い申し上げます。」
 知人は大手電機メーカーに勤務。パソコンに関する客からの質問にメールで答えるのが仕事だ。お客は神様だから、上司からきつく、ていねいにていねいに、さらにていねいに最上級の言葉をもって接するようにと諭されているらしい。その例がたとえば上記の文。知人いわく、製造番号を知りたいだけなのに、なにも御教示賜らなくてもいいのではないか。製造番号を教えていただけますか、でいいだろう。だって、その客が知りたいことはもっと先にある。知りたいことの手前でなんだか妙にていねい過ぎる言い回しをされて、客はどう思うだろう、云々。
 知人の意見は至極もっともだと思ったから、そう答えた。「賜る」と「存じ上げる」がやたら多い文章は、皮ばかり厚くて食うところがほんの少ししかないフルーツに似ている。大事なことを本当は知らせたくなくて、「賜っ」たり「存じ上げ」たりしているのじゃないかと勘ぐってしまう。