帰省はいつも新幹線を利用しているのですが、前席シートの後ろのネットのなかに
JR東日本が発行している冊子が入っていて、
それを読むのをたのしみにしています。
[旅のまにまに]の連載エッセイは柚月裕子さん。こんかいは「思いつきの勧め」
という題で書いていました。
その文章のなかに、十年ほど前のことらしいのですが、
心身ともに不調だったことに触れ、心と体は、片方が不調だと、
もう片方も衰弱する。何もしたくない、何も食べたくない、やる気もない、
三ない尽くしの時期があったと。
診断を話しても、それが治療に生きなければしょうがない。
難しい漢字の病名を背負いこんだり、恐ろしいと思って帰るだけでは全くしょうがない。
せめて「ノイローゼから一歩出ていると思う」とか、
「統合失調症みたいな所も確かにあるが健康な所もある」
といった様に話すことにしている。
これが一つもウソでないことは精神科医の方々には分ってもらえるはずだ。
相手をみて「″気になり病″という感じですね」「″気が済まない病″ですね」
「ふさぎの虫がちょっと腰をおろしましたね」
「二本の綱の綱わたりという感じですね。これから何病が出てくるか、
ここから立て直すか、一生のうちでも重要な時ですよ。めったにない時だから
協力して下さい」というふうに話すと
病名を言う際の副作用が非常に救われることもある。
診断ということは″レッテルを貼る″ということだとされ、
マイナスの方を強調されがちだが決してそうではなく、
ただ、〇〇病であってそれ以外でなく、
かくかくの程度であってそれ以上ではなく見通しはこうだという限界づけ
が重要である。
いつもではないにしても内科などでは医者がかけつけて診断をすると
それで随分精神的に救われる場合も多い。
(中井久夫『中井久夫コレクション 世に棲む患者』ちくま学芸文庫、
2011年、pp.272-273)
中井久夫さんに診てもらったひとは、ホッと息を吐き、
肩の力が抜けたんじゃないでしょうか。
″気になり病″″気が済まない病″、
また、ふさぎの虫はわたしのなかにも棲んでいますから、
中井先生の精密でやわらかな診断に
診てもらう人は希望をもてたんじゃないかと想像します。
・夏帽子取つて二つの薬缶尻 野衾