季節の花

 

いろいろありますが、
緊急事態宣言がようやく解除になり、
そのことだけでも気分が少し軽くなった気がします。
季節は新緑を迎え、
目にあざやかな刻を告げています。
近所に草花の世話が好きな女性がおられ、
朝に、夕に、季節の花々の色と香を楽しませてもらっています。
先日、
通りがかったとき、
ちょうどその方が花に水をやっていたので、
日頃の感謝の気持ちを伝えました。
すると、
「ちょっと過ぎてしまったわね」
といいながら、
四、五本、折って手渡してくれました。
家に持ち帰り、
てきとうな瓶に挿して楽しんでいます。

 

・蚤ぶちりあとは山家の蘂蒲団  野衾

 

ひとごとでない

 

ハイデッガーの『存在と時間』の第二編を読んでいると、
翻訳によって少しの違いがあるとは思いますが、
「ひとごとでない、係累のない、追い越すことのできない可能性」
という言葉が、何度も、
いや、
何十度もでてきます。
これは、
現存在にとっての死を表現したものですが、
繰り返し繰り返し現れるので、
本を読んでいて、
木霊のように聞こえ、
耳鳴りのような具合になってきます。
「ひとごとでない、係累のない、追い越すことのできない可能性」の前で
腕を振るしかない人間、
その足掻きのような思索の跡。
緊張度は大したもので、
梯子をかけられ屋根に上った人間が、
気づけば、
梯子を外されていて、
屋根のてっぺんまで行ったはいいが、
いくら踏ん張っても、
今度はずるずると滑り落ちるだけのような、
落ちれば、
そこに大地はなく、
たとえば、そんな画さえ浮かんできます。
死がどんなふうに、
ひとごとでない、わたしに、現前するものであるかをいかに精緻に描いてみせても、
それで救われるわけではないことが分かります。
未完で終わるしかなかったのでしょう。

 

・いななくや馬と吾ゐる夏の家  野衾

 

鮨屋にて

 

マスクをつけ、鮨店へ。
11時開店と同時ということもあり、ほかの客はおらず。
板前さんをはじめ、
店の人は全員マスクを装着。
礼儀正しい店長が深々と頭を下げ、
「いらっしゃいませ」
「お久しぶりです」と、わたし。
店長のお辞儀の姿から、
この間の苦労が偲ばれます。
緊急事態宣言解除マジか、
いや、
間近とはいえ、
まだまだ予断を許さない状況ですから、
おもむろにマスクを外し、
緊張感をもって一貫ずつ口中へ。
と。
旨い。
旨いな~。
考えてみれば、
三か月ぶり、ぐらいかな。
にぎり立ての鮨の味はやはり格別で。
いま思い出しましたが、
烏賊を食べるのを忘れた。

 

・卓に薔薇雲のゆくへを眺めたり  野衾

 

『存在と時間』

 

マルティン・ハイデッガーの主著としてつとに有名。
日本語訳がいろいろ出ていますが、
わたしが読んでいるのは、
ちくま学芸文庫のもの。
細谷貞雄さんが訳しています。
ハイデッガーがフッサールの弟子であることは承知していましたが、
細谷さんが、訳注で引用しているなかに、
ハイデッガーがいかにフッサールを敬愛していたか
がしのばれる文章があり
目をみはりました。

 

かくして人間は、
実存する超越としてもろもろの可能性のなかへ跳躍しつつ、
遠きに在る者である。
彼があらゆる存在者にむかって
みずから超越において形成する根源的な遠さがあればこそ、
それによって彼の内に、
もろもろの事物への真実の近さが高められてくる。
そして、
遠きところへ聞くことができるということこそ、自己としての現存在に、
共同現存在の応答のめざめを熟させ、
その人との共同存在において、
彼がおのれを本来的自己として得つつ
(たんなる)自我性を放下することができるようになるのである
(マルティン・ハイデッガー/細谷貞雄=訳『存在と時間 上』筑摩書房、1994年、p.501)

 

恩師フッサールへの記念論文とした『根拠の本質について』
の結びの言葉、
だとのことです。
あのいかめしい顔つきのハイデッガー(笑)に、
こういう情愛がひそんでいたのか、
と反省させられます。
ヘルダーリンの詩に近いものをも感じます。

 

・夏草や罐のやうなる馬の鼻穴(二字で[あな])  野衾

 

文質彬彬

 

文はかざり、質は実質、中身。
彬彬は「ひんぴん」と読み、ふたつがバランスよくそなわっていること。
論語にでてくることばとして、
つとに知られています。
君子の条件ということですが、
もともとの謂れを離れて、
こんかいのコロナ禍とじぶんの若いころの生活を思い出し、
ふりかえれば、
そのときどきにまじめに過ごしてきたつもりでも、
かざりの時間も多かったような。
君子だろうが小人だろうが、
極端を避けることは大事なのでしょう。
いまはやむなく、
実質偏重とも思える時間を過ごすしかありませんが、
両方相まって、
というふうにこれからしていきたい。

 

・夏空や抜きつ抜かれつ馬の脚  野衾

 

関係性の飛沫

 

毎週火曜日の夜は、
テレビのクイズ番組を見ながらの夕食ですが、
きのう、
あることに気が付きました。
新型コロナの影響で、
以前のものを再放送したり、
いま現在のものはオンラインによるものでしたが、
オンラインによるものは、
ライブ感はあるものの、
どうもイマイチおもしろくない。
なんでだろうと、
テレビ画面を見ながらしばらく考えましたが、
解答者同士の横のつながり、
たとえば、
だれかが変な答えを言ったときにちょっと横を向いたり、
プッとふき出したり、
妙なつばぜり合いをしたり、
そういう、
ことばによらないところの関係性が
遮断されているせい、
ではないかということに思い至りました。
感染防止のための飛沫遮断は、
ひととひととの微妙な関係性まで
断ち切ってしまいかねない、
逆にいえば、
テレビのクイズ番組でわたしが見ていたのは、
珍妙な解答のおもしろさ
も然ることながら、
それ以上に、
その場の空気の変容の様
だったのかなぁと。
テレワーク、オンライン授業がふつうのことになっている今、
あらためて、
ひととひとが直に、共に、いることの意味
が問われているようにも感じます。
ひととひととの「直(じか)」の関係
を、
恩師である竹内敏晴は生涯問いつづけました。
弊社から、
竹内敏晴と木田元の『新版 待つしかない、か。 身体と哲学をめぐって
の対談本を出しています。
初版が2003年、新版が2014年、
すこし時間がたちましたが、
いまを読み解くヒントがいくつもあり、
おススメです。

 

・猖獗の字を覚えたり春の闇  野衾

 

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*さて、このブログ、「博論の書籍化について」をしばらく固定にしていた関係から、
何人かの方から「ブログが更新されていない」のご連絡をいただきました。
宣伝を兼ね一定期間ブログページのいちばん上にくるように設定したためで、
わたしは元気にやっております。
ことばを掛けていただいたことで、
はげみになり、またがんばろうという気になりました。
ありがとうございます。
今度は、きょうのこのブログをしばらく固定にします。
なので、お読みくださる方は、
明日以降、上から二番目のブログを見ていただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。

 

・鳴き移り名残の春の烏かな  野衾