Archives : 1月, 2005

崑氏

 谷川俊太郎さんの新装版『みみをすます』を読んだせいか、何のせいか良くわからないが、夢に、20年も前に付き合っていた女性が出てきた。
 出発前のジェットコースターに二人並んで乗っていた。変なジェットコースターで、電車のボックスシートのように四人がけ、ぼくの前には「とんま天狗」で一世を風靡したあの崑氏が座り、「科学の発達が人類に幸福をもたらすかどうかなどということは、はなはだ疑問でありまして…」と、わけのわからぬことを言った。言った後、例の黒縁のメガネが鼻先へずり落ちた。崑氏の隣には見知らぬおばさんが座っていた。ボックスシートはただボックスになっているだけでなく、真ん中にテーブルがしつらえてあり、事前に申し込んでおいた料理が運び込まれるシステム。ぼくら四人のテーブルは、おでんか何かだった。崑氏が頼んだのだろう。ぼくと彼女は頼まなかったから。
 ジェットコースターがガタンと鳴り、振動でおでんの汁がちょっと飛んだ。テーブルの端からそれがこぼれた。ぼくの隣の彼女は、なぜか上半身裸で、形のよい胸を出していた。「とんま天狗」の崑氏が見知らぬ我々に、いきなり「科学の発達」うんぬんの話を始めたのは、彼女の胸を見たせいだと合点がいった。ぼくは、なんだかもったいない気がして彼女の胸に頬を寄せた。おばさんは、全く関心が無さそうに地面のほうを見ている。ゴトゴトゴトゴト… ジェットコースターがいよいよ動き出し、振動に合わせるように胸がドキドキした。

同感

 休日、出勤途中、有隣堂横浜ルミネ店に寄り、文庫やら雑誌やら単行本やらを手に取りぱらぱらめくっていたら、以下のような文章が目に飛び込んできた。少し長いが引用する。
 「相田みつをの詩は人気だよ、という人もいることだろう。たしかにそれは行分けのスタイルをとる。詩のかたちだ。ほとんどは二、三行の感想のようなもの。見る人が見えやすいように、行分けしたものだ。みんな疲れているので、頭をつかわなくてもいいものにとびつく。そんな現代人のためのことばだ。内容的にも表現のうえでも詩というほどのものではない。これが詩なら、むしろ読む人のほうがもっとじょうずに書けるのではないかと思われるようなもので、その点、安心できる。ことばに、個人の息づかいを感じるときの不安を、その「作品」はいささかも感じさせない。」
 呵呵大笑。有隣堂横浜ルミネ店の、その辺にいた客たちは、突然わたしが笑い出したので、変な人だとでも思ったのだろう、ササササ…と、わたしの傍から離れていった。
 荒川洋治『詩とことば』(岩波書店)さっそく買った。この毒舌! この笑い! 絶好調!!

その男

 ゾルバでなく、きのうのメールブロック男のことだ。
 仕事中、彼は、なぜ、切ったメールブロックを携帯電話の画面に貼らずに自分の頬や額に貼ったのだろう。わからん。どうしても。わかる必要はない。でも気になる。
 あのゼラチン質の手触り感が気に入って、それをほっぺやおでこに貼ることでやさしい気持ちになれたとでもいうのか。それもなんだか違う気がする。本人に確かめるのが一番手っ取り早いが、仕事上の情報で守秘義務があろうから、知人のSに男の連絡先を訊くわけにもゆかぬ。これからの人生で、仮にわたしが偶然どこかでその男に逢ったとして、くだんの件に関し尋ねても、本人にすら確たる理由はわからないのかも知れぬ。
 なんか変だと思ったら、その男のことを考えていた。

メールブロック

 ケイタイ電話の画面を後ろや斜めから覗かれないようにするための透明なシールみたいなの、あれ、なんて言うの? と愛ちゃんに訊いたら、すぐに調べ、そう教えてくれた。
 というのは、知人のSから電話が入り、仕事で近くまで来ているので寄ってもいいかと言うから、ああ、いいよいいよ、待ってるよ、と言ったら程なくやって来て、最近起こったトホホな話をしてくれた中に、メールブロックにまつわるものがあったからだ。
 Sは派遣会社に勤めている。派遣されるほうではなく、派遣する側。応募があれば、面接し、住居を手配し、派遣先のメーカーに一緒に付いて行ってあげる、ほとんど学校の生活指導のような仕事だ。
 ところが、あまりに生活力のない人間が多いらしく、住居を手配するばかりか、ひどい時には鍋釜(今なら炊飯器か)まで買ってあげる。給料をもらったら返すことを誓わせ代金を立て替えてあげる。過日面接した青年は、前日、寺の空き地で寝たと言うから、かわいそうに思ったSは、面接を終え部屋をあてがった後、ちょうど手ごろな蒲団が家に余っていたことを思いだした。仕事が終わり夜遅く家に着き、夜中、かわいそうな青年のためにと蒲団を持ち出した。そうしたら、奥さんに見咎められ、「あなた、浮気でもするつもりじゃないでしょうね!!」って言われた。でも奥さん、蒲団をかついで浮気しに行く男はいないと思うよ。
 それはともかく、メールブロックの話。
 年齢は39歳。男性。少しおとなしめだが、色白の男前。このひとなら大丈夫だろうと思ったSは男をメーカーに送りこんだ。故障したケイタイ電話を預かり修理する間、替りのケイタイをお店に届けるそのケイタイの、ある段階を受け持つ会社で、詳しい内容についてはSもそれほど知らない。とにかく、ケイタイ電話に関わる仕事で、作業工程の中に、ぐるぐる巻きにされたメールブロックのシールを適度の長さに切って貼るというのがあったらしい。
 色白の男前を派遣し、やれやれと安心したのも束の間、翌朝、工場長からさっそく電話が入り、あの男、もう要らないと言ってきた。
 焦ったSが「ど、どうしてですか」と尋ねると、「会社の女性たちが気持ち悪がっている」。「?????」
 事の顛末を要約すると、概略、以下のようなことだったらしい。
 色白の男前、あてがわれた机に向かい指示された仕事についたまでは良かったが、なんと、ロールされたメールブロックを切って、ケイタイ電話に貼らずに、自分の頬に貼ったらしい。遊び心なのかなんなのか、とにかく貼った。そばで作業していた女性がそれを見、「あのう、どうかされたんですか」と尋ねた。「いえ、なんでもありません」と色白の男前は言い、話し掛けてきた女性をジッと見据えた。「でも、頬にメールブロックが付いていますけど…」「いえ、なんでもありません
 不審に思いながらも、なんでもありませんと言う者をそれ以上問いただすわけにもゆかず、女性は自分の仕事に戻った。が、しばらく経って、なんだかやっぱり不安になり、眼を上げると、あろうことか、くだんの男、長めに切ったメールブロックを今度は自分の額に熱冷まシートのごとくペタリと貼っていた。
 驚いた女性、「あの、あの、あのう………、どうかされたんですか」。男は眼を上げ、睨めまわすように女性を見、「いえ、なんでもありません」。勇気を振り絞って女性、「で、でも、ひ、ひ、ひたいにメールブロックが…」。「いえ、なんでもありません
 というわけで、工場長からSに先の電話が入った。
 それにしても、その男、なにゆえメールブロックを頬に貼ったり額に貼ったりしたのだろう。女性の気を惹こうとでも思ったか。粘着力を確かめようとでもしたのか。ただなんとなくか。貼ったら気持ち良かったのか。それとも…。わからない。

サイレン

 「愛と欲望の日々」にでてくる狸穴について疑問を呈したところ、明解な答えが寄せられ、今日の関東の天気のようにパーッと雲が晴れた。ありがとうございます。インターネットってこういうところがいいなあ。
 さて、昨日のコメン答(コメントに対する返事をこう呼んではいかがかと思うが、どうだろうか。どう? ダメ? ダメ。あ、そ)にも書かせていただいたが、急に思い立ち、北島三郎の「涙船」をカラオケで歌ったら、自分で歌っているのに感動しちゃってウルウル来た。船村徹作曲、星野哲郎作詞。いい歌だなあ。♪なーーーーーみだあーのーーーーーぉおおおおーーーーーーーっ♪ と、くらあ。ね。
 正月二日、いや、三日だったかな。夜、テレビをつけたら、たしかBSで北島三郎特集をやっていた。デビュー前の苦労話から現在に至るまでの半生を歌を挟みながら綴る番組で、とても興味深く、面白く見た。そのなかで、上の♪なーーーーーみだあーのーーーーーぉおおおおーーーーーっ♪のところ、作曲家の船村徹が言うことに、サイレンの音がヒントだったとか。ほんとかよ!?
 新宿って言ったかなあ、船村先生、酒を呑んでいたらパトカーだか救急車だかのサイレンの音が聞こえたんだって。そうしたら、店にいた客が、なんだなんだ、どうしたんだ、というので一斉に外へ飛び出した。しばらくすると、出ていった客たちがまたぞろぞろと戻って来た。これだ! って、船村先生思ったそうな。サイレンの音は人を惹き付ける!! あはははは…
 そういえば、たしかにあの出だし、サイレンの音みたいだもんな。あそこのところ、息継ぎせずに一気に歌うのが難しいんだって。北島三郎がそう言ってた。実際にやってみると、無理無理、ぜってー無理! 勢いつけて♪なーーーーーーーー、と歌い出しても、最後のほうになると息が切れちまい、プスプスプスと情けないことになってしまう。あれを一気に歌い切るというだけでも北島先生は尊敬に値する。

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三浦衛(みうら・まもる) 春風社代表にして自慢大王&悪ノリ大王。体調のいいときは自らを天才と称し、不調の折はちりあくたにも劣るヤツとしょんぼり。

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三浦衛の本


『カメレオン』
 三人ときどき声にならぬ声を洩らし/とろけ とろけ 唾までとばし/クヂるとナメるとネヂるとチョす…(「鳶」) 自在に色を変え、不意に突き刺さる、軽妙なことばの戯れ。秋田方言満載の詩集。本文は金属活字による活版印刷。


『マハーヴァギナまたは巫山の夢』
 三平佐世夫は、千一夜の夢うつつで女と戯れ、印度に旅し、睾丸を抜かれ、鰐を飼い、横浜を彷徨う。言語の崖っぷちを綱渡りする、めくるめく冒険。本文活版印刷に美麗造本を施した平成の大奇書。


『父のふるさと』
 父の目に映じた故郷の風土、ひと、くらし、農事を、愛惜をこめ描きだす。本文は金属活字による活版印刷。「身と蓋函」に納める。


『出版は風まかせ』
 横浜の出版社「春風社」社長が本づくりと会社経営にまつわるエピソードを豊富におりまぜ、創業から10年を振り返る。