全身写真家

 午後出社したら、編集長武家屋敷ノブコが助手となり、すでに暗幕が張られ、部屋が写真スタジオと化していた。
 写真家・橋本照嵩は常に完璧を期す。腰をぐっと落とし、足裏を床にペタリと貼り付かせるようにして立つ姿は独特で、32点の葉画作品の撮影に結局丸々8時間を要す。かつて膨大な韓国李朝民画を撮影したこともある橋本さんは、作品の質感まで写し取る。操作される光のなかでシャッターを切る音だけが静かに鳴り響く。呼吸するのも憚られるほどの緊張感だ。
 今回は徹夜にはならなかったが、以前、撮影に同行し岡山に行った折、寝る間も惜しんで撮影しているというのに元気のオーラが漲るようで、この人は全身写真家なのだと思った。東日本テレビ開局30周年記念特別企画、北上川をリヤカーで撮影行脚する橋本さんの90分ドキュメンタリー番組は4月放送とのこと。ピンコピンコピンコピンコのあの独特の口三味線瞽女歌も番組の中で披露されるとか。♪向こうに見えるお山はなーに♪ か。
 子どもの頃、祖父が牽くリヤカーによく乗せられたそうだ。だから、自分の目線はリヤカー目線なのだと。リヤカーに揺られながら見た驚きの世界と震えが写真家橋本をつくった。