値引き交渉

 わが社の場合、担当編集者が本づくりの最初から最後までをやる。みずからの意図で装丁を誰々に頼むとか、写真を使いたいからこの人に頼むとか、そういうことはあるが、基本的に全部やる。
 本文や表紙の紙を選ぶのも、印刷所に見積りを依頼するのも担当編集者だ。
 相見積りを取り、見積り書のFAXをわたしが見、もう少し値段を下げて貰いなさいと指示する。編集者はそれぞれの個性で値引き交渉をする。武家屋敷は武家っぽく。若頭は若頭っぽく。たがおはたがおっぽく。
 たがおに、「これこれこうだから、この値段で、お・ね・が・い・し・ま・す!!」と言いなさいと指示すると、驚くほど忠実に、有無を言わさぬ勢いで「これこれこうだから、この値段で、お・ね・が・い・し・ま・す!!」と言う。凄い! おお、なんて断定的! そうか、そう言えと教えたのは俺か…。それを聞いて、横で若頭がくすくす笑っている。「言えねえ、言えねえ、俺には言えねえ」などと少々顔を赤らめている。家が商売をしている関係からか「こことここの値段を下げて、もう少し何とかなりませんかねえ。お願いしますよ」というのが若頭のスタイルだ。
 事ほど左様に、個性というのはどの場面においても現れる。それを、なるべく封じないようにするのがわたしの務め。