泥、泥、泥

 また観たいと思ってDVDを買ってあったのだが、長いも長いし、そうそう気軽に観られる内容でもないから、つい先送りにしてきた。昨日ようやく観なおした。『七人の侍』3時間27分。ひょえ〜!
 本でもそうだが、二度目というのは最初と違うところに眼が行くものだ。三船敏郎演じる菊千代が百姓(実際はともかく、黒澤監督がそうと認識している、あるいは描こうと意図した)出身であることがきちんと描かれていると思った。
 村の代表が七人の侍を連れて村へ帰って来たとき、侍に恐れをなして家々に閉じ篭っているのをウソの「野武士襲来!」の合図で一気に村人のこころを援軍の侍たちに向かわせたのは菊千代だった。ほかにもポイントポイントで、百姓の気持ちを深いところで分かっていなければできないと思われる行動がいくつもある。なかでも眼を奪われたのは、村の洟垂れガキどもが、「あっち行ってろ!」といくら菊千代にどやしつけられても、追っ払われたニワトリが三歩あるけばまた元に戻るようにぞろぞろ菊千代に付いて歩くシーン。それが、ふっと何度か描かれる。ガキどもは、言葉でないところで、菊千代に父や母と同じものを感じて付いていくのだろう。菊千代の一挙手一投足から眼が離せないガキどものこころがよく分かる。そのことを言葉で説明するのでなく、ごく自然に描いているところが素晴らしい。
 それにしても合戦シーンの泥には圧倒される。びちゃびちゃと画面から飛び出してきそう。あんなに長くしつこくやられると、泥に身を投げ出すのも悪くないなと思えるから不思議だ。水田稲作、泥の映画だ。