くさむら写真

 橋本照嵩来社。写真集『北上川』の下版前最終チェックと次の写真集『叢(くさむら)』のための写真を持ってきてくれたのだ。
 かつて『アサヒカメラ』に連載、さらに、ミノルタがスポンサーになって写真展も開いたそうだが、まだ一冊にまとまっていない。前から見たいと思っていたものだ。橋本さんが床にずらり並べた大判の写真から強烈な草いきれが立ち昇ってくるようであり、青草、枯草の匂いに包まれた子供の日のわけのわからぬもやもやした歓喜が一気によみがえる。くさむらの草は生そのもの、欲情せずにはいられぬ。女の裸を初めて見たのも川で泳いだ後のくさむらだった。左官屋の娘。水玉が弾かれるようにわたしの青い視線も弾かれた。ク〜ッ!
 それはともかく、くさむらの「くさ」はもちろん「草」だが、臭いの「くさ」であり鎖の「くさ」であり腐るの「くさ」でもある。一方、くさむらの「むら」は、村田製作所の「むら」であり人形師辻村ジュサブロウの「むら」でありローズ・ムラムラの「むら」でもある。なんのこっちゃ。分かる人には分かる。分からない人にはさっぱり。
 というわけで、この叢写真、匂いの写真家橋本照嵩の真骨頂ともいうべきものだろう。編集者の腕が鳴る。闘志がむらむら湧いてきちゃ!!