水の都

 NPO法人富士山クラブ事務局長の渡辺豊博さんに三島を案内してもらいながら、いろいろおもしろい話をうかがった。
 まず、三島という土地だが、富士山が噴火したとき溶岩が流れ、その舌先がたどり着いたところに位置しているという。むかしは富士登山のひとつの玄関口で、そのことを記載した碑も渡辺さんたちの活動で旧に復した。
 自然としては、富士山に降った雨が土に潜り、長い時間を経た後に、湧水となって町のあちこちから湧き出している。古くから「水の都」と称えられた所以である。渡辺さんに付いて町の中へ入った時、こころなしかひんやりした感じがしたので、そのことを尋ねてみた。水がそこここから湧き出しているせいで、普通は町へ入ればムッとするところ、三島は夏でも涼しいのだという。
 営業のアルバイトで会社に来ているMさんは、いま大学四年生。富士真奈美と同じ三島出身。卒論は「ヴァージニア・ウルフと水」だとか。ヴァージニア・ウルフを取り上げるのに、なぜ水との関連でそうするのか尋ねてみたことがあったが、その時は(もちろん理由はあるにしても)納得のいく答えが得られなかった。しかし、三島を一日歩いてみて腑に落ちる気がした。こんなに水の豊かな土地、各所で水が湧く「水の都」に生まれ育った彼女にしてみれば、水は空気以上に呼吸し、なくてはならないものとしてあるのだろう。本人が意識するよりもさらに深く染み込んで、その意味を捉えきれずにきたのかもしれない。
 想像力の源といったら、どこから生まれてくるのか雲をつかむような話ながら、案外、生まれ育った土地の水や空気や光、それを栄養にして育つ食物やに根ざしているのではないか。そうそう。詩人の大岡信も三島出身だそうだ。わたしはそれほど熱心な読者ではないけれど、大岡さんの書くものにも、きっとそこここで水が湧き出しているのだろう。