新しい耳で聴く

 寺島さんの新コラム「たのしいジャズ入門」がいよいよ始まった。寺島さんは吉祥寺にあるジャズ喫茶「メグ」のオーナーで、ジャズ評論家としても名を成している。“売れっ子”なのだ。うちがなぜジャズ評論界の“売れっ子”と知り合いかといえば、稀代の名編集者、師匠・安原顯のおかげなのである。
 二人は、安原さんが編集したジャズの本に寺島さんが執筆したことがきっかけで仲良くなったそうだが、ジャズがもともと好きだった安原さんは、晩年、寺島さんの影響でオーディオに凝り出した。寺島さんは「オーディオはカネだ!」と喝破された人でもある。
 その寺島さんがジャズの名盤を独特の寺島節で紹介してくださるというのだから、おもしろくないわけがない。視点がハッキリしている。五十年前、十年前の耳でなく現在の耳、新しい耳で聴く、という視点。寺島さんのジャズ評論はそれに徹している。それと、自分が聴いてどう感じるか、自分はどう聴いたか、ということ。素直な耳、しなやかな感性、自分を信じるということがなければできない所作だ。ファンが多い所以である。
 さて今回紹介されている五枚だが、わたしもジャズ好きと自負しているが、聴いたことのあるものが一枚もない。一枚も…。これはどうしたことか。考えてみればあたりまえで、仕事柄から言っても寺島さんがジャズを聴く時間はわたしなどの比ではない。耳が肥えている。肥えた耳は古今東西のジャズをどう聴くのか。紹介されているCDからこれはと思うものを自分の耳で聴いてみるのも一興、これから次々に紹介されるCDに自分の好きなものが入っていたら、感じ方が同じか違うか確かめてみるのも楽しい。ジャズが好きな方、これからジャズを聴こうとしている方、どうぞ楽しんでいってください。