夢うつつ

 今朝方、目が覚めたのは二時ごろだったろうか。かたかたかたかた。はじめは地震かと思った。このあいだも、ぐらりとくる三秒前に目が覚めて、「来るな」と思ったらすぐに来た。カラスやナマズでなくても、異変を事前に感知する機能が人間の体にも備わっているのかもしれない。予知能力といっても、たかだか三秒では話にならないが。
 耳を澄ますと、かたかたかたと鳴っているのは、外のものではなくわたしの奥歯だった。うっすらと開いた口の奥のほうで歯がぶつかる音がする。エアコンを「快眠」にセットしているのはいつものことだから、寒さのせいではない。実際、意識して奥歯を噛むとかたかたの音は止む。ほかに体の異変は感じられない。国道1号線を戸塚に向かう車か、折れて鎌倉方面へ向かう車かわからないが、遠くでエンジン音が聞こえる。夢ではなさそうだ。
 かたかたかたかたかたかた。奥歯の力を抜くとまた他人事のように鳴り出す。噛むと止む。五遍ほどそれを繰り返した。すると、かたかたかたかたかたかたと音をさせているのは、わたしではない気がしてきた。鳴っているのは確かにわたしの奥歯なのだが、鳴らしているのはわたしではない。
 わたしを呼ぶ声がする。かたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかた………………………………………………………
 ハッと目が覚めた。じっとり汗をかいている。白檀のお香の匂いが微かにしたから今度は本当のようだ。かた、と音がして横を見た。動悸が激しくなり耳に聞こえるほどだったが、遠くに聞こえるのはさっきと同じ車の音だけで、ほかには何も聞こえなかった。