トカゲ

 暑い日がつづき頭も体もおかしくなりそう。本当は帽子を被ればいいのだろうが、少年と老人以外の男は帽子を被っていないので、ぼくだけ目立つわけにもいかないから、なるべく日陰をさがしてチョロチョロ歩いている。陰が一つもないさっぱりした道はつらい。
 チョロチョロといえば、きのう、保土ヶ谷駅の上りホームで電車を待っていたら、焦点の合わぬ眼に何やら動くものが映った。ハッとして半歩しりぞき焦点を合わせると、トカゲ。トカゲが線路脇のコンクリートの穴から這い出してきてすぐ横の別の穴にもぐっていった。こいつも暑いらしい。
 わたしと同じで帽子を被るわけにはいかない。トカゲが帽子を被ったらおかしい。変だ。食べ物なら、すぐそばにスーパーやハンバーガー屋やどこにでもある和食のチェーン店があるから困らないだろう。が、線路脇にできた穴では涼を取ることは難しい。時々這い出してきて、こっちの穴からあっちの穴に移動するとき、束の間、日陰の風に身をさらすぐらいが関の山だろう。
 そのうち上り横須賀線の電車がホームに入ってきたから、トカゲが今どうしているのか見極めるわけにもゆかず、もはや想像するしかなかった。車内がクーラー利いている分、車外は熱風。それでなくても太陽にさらされた車体は触れないほど高温になっているだろう。ホームに電車が停まっているあいだ、トカゲは必死に身を潜め、電車が出ていったとなったら、涼を取るため、またチョロチョロと穴から這い出す…。お前もか。なんて。俄然親近感が湧いた。