一生わがまま

 DVDまるまる2時間『ザ・マイルス・デイビス・ストーリー』を観た。
 バックに流れる曲はほとんど知っているし、登場人物も、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーから始まり、クラーク・テリー、ジミー・コブ、シャーリー・ホーン、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス、デイブ・ホランド、ジャック・デジョネット、ジョー・ザヴィヌル、キース・ジャレット、チック・コリア、ジョン・マクラフリン、デイブ・リーブマン、マーカス・ミラーなど、往年の名プレイヤーから現役バリバリミュージシャンまで入れ代り立ち代り現れマイルスとの思い出を語り、飽きさせない。マイルスの物語なのにジャズの歴史をドカン! とまとめて見せられるようで楽しめた。
 することなすことわがままなマイルスだったが、思い出を語る名うての演奏家たちの語り口から、彼らがそれを今も宝物のように大事にしていることがよく分かる。
 マイルスの最初の奥さんで、『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』という恥ずかしくなるようなタイトルのアルバムジャケットに写真が出ているフランシス・テイラーによると、マイルスはとても嫉妬深く、あっちのほうも強かったらしい。
 ミュージカルダンサーだったフランシスはマイルスのために結局ダンサーを辞めることになる。自分の妻が客の脚光を浴びることに我慢ならなかったのだろう。わがままも相当なもので、ある時、ミュージカルのリハーサル最中に電話がかかってきて、昼の休憩時間に一緒にメシを食おうという。説明しても分かってくれる相手ではない。休憩は1時間。急いで駆け付けたが食事はなし。なんのことはない「結局満足したのはマイルス一人だけだった。アハハハハ…」って、なんだ、そういう艶っぽい話か。
 「最初の二人の息子とは終生和解することはなかった」と娘さん。娘さんのことは可愛がったのだろう。「いろいろあったけど、最後は水に流して子供たち全員に遺産を平等に分けてくれるかと思ったのに…」とも。ともあれ、あっぱれなわがまま人生ということになろうか。