わたしの住んでいるところは、山のうえというか、崖のうえにあり、
そこから南のほうへ向かい、
それほど広大ではありませんけれど、
崖が、ちょうど伊良湖岬を思わせるように湾曲しており、
その先に鋭くとんがった三角屋根の家があります。
横に大きな桜の木。
ときどき台湾リスが遊び回ります。
咲きはじめから満開に至るまで、ことしもずいぶん楽しませてもらいました。
三日まえから散りはじめました。
螺鈿につかわれる、
たとえば夜光貝の殻のうすいかけらをさらに薄くしたような切片が、
オモテ、ウラ、オモテ、ウラと、
まるで時を惜しむかのように、キラキラ、キラキラ、
舞い落ちます。
時を忘れ、しばし無音の舞を眺めていました。
散る桜残る桜も散る桜
良寛さん辞世の句とされていますが、そんなことばも連想されます。
さくらが散る姿を、
これまで幾度となく目にしてきましたが、
母がいなくなった世界で初めて目にするさくらでした。
・春光や昔に潟の帆掛舟 野衾