寺島良安さんが書いた江戸時代の百科事典ともいうべき『和漢三才図会』。
日本漢文で書かれた原文を口語訳にしたもの
が平凡社の東洋文庫に入っています。
ぜんぶで18巻。ただいま15巻目。
百科事典、みたいなものですから小説のようなおもしろさはありません
けれど、ときどき、奇妙な、というか、
へんなことが書かれていて、
寺島さん、まじめに書いているのかな? どうもまじめなようだ、
そんなふうですから、
これはこれで読書のたのしみを味わわせてくれます。
果樹が繁茂して実を結ばない場合は、元日の五更(いまの朝の四時から六時)、
あるいは除夜に、斧でこれを斫《はつ》ると実を結ぶようになる。
あるいは、
辰の日に斧で果樹を斫ると子を結ぶようになり、子は落ちない、
ともいう。
△思うに、除夜に一人が樹の上にのぼり、一人が樹の下にいて、樹をなじって、
「お前は子を結ぶのか、子を結ばないのか、たった今、斫り棄ててしまうぞ」
という。
すると樹の上の人が、
「わかりました。今日以後、子を結ぶようにします」
とこたえる。
すると果して翌年には子が多くできる、という。
これは俗間の伝えではあるが、和漢ともにその趣旨はよく似たものである。
どんな木でも急に枯れそうになったときは、
早急に地上三寸の陽に向かう処に灸をするとよい。
多くは活気を取り戻す。
(寺島良安[著]島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳[訳注]『和漢三才図会 15』平凡社、
1990年、p.287)
引用文中の「子」は「こ」ではなく「み」と読みます。
「斫る」は「はつる」。削るの意。
話変って先月、
会社のウンベラータをかなり大胆に剪定したところ、
いま、日に日に芽を出しはじめ、日に日に大きくなっています。
出社するのが楽しみなわけですが、
植物のいのちの張りというか、エネルギーというのは、
たいしたものだとあらためて感じます。
いとしくなって、話しかけたりもしますから、
寺島さんが書いているいることも、
さもありなん、という気がいたします。
・雨のなか黒き幹なる桜かな 野衾