古賀メロディのルーツ

 

「処女作に本人のすべてが表れるとか、
ファースト・アルバムを聞くとその人の全部が見えるとか、
そういう言い方がありますよね。
大家と呼ばれている方々だと、全盛期の作品が一番いいように思われがちだけど、
確かにデビュー作にこそいろんなものがつまっているんですよ。
成功したにせよ、失敗したにせよね。
例えば古賀政男さんの「影を慕いて」は、
作曲家になる前、
明治大学のマンドリンクラブの時に、
学祭に佐藤千夜子を招ぶために作った曲だからね。
プロの歌手に捧げるために。
だから作詞作曲なんですよ。あの方が作詞しているのは珍しいでしょう。
メロディはスペインのギター奏者・セゴビアの帝劇での演奏
に感激して作ったものらしいけどね。」
(大瀧詠一『大瀧詠一 Writing&Talking』白夜書房、2015年、pp.701-702)

 

古賀政男の「影を慕いて」といえば、
わたしでも口ずさめるぐらいですから、そうとう有名。
暗いメロディですが、
しっとりと静かに沁みてくる感じがして、
大川栄策が歌う「影を慕いて」など、つい聴き惚れてしまいます。
日本のこころを奏でる古賀メロディ
の代表曲とされている「影を慕いて」ですが、
引用した大瀧詠一の記述によれば、
そのルーツはセゴビアにあった、ということになり、ビックリ!
ただ、
ウィキペディアなどにより調べてみると、
疑問がないわけでもなく。
ウィキでは、
1929年6月、佐藤千夜子が明治大学マンドリン倶楽部の定期演奏会に出演し、
ギター合奏により初演された「影を慕いて」に注目する、
となっていますが、
セゴビアが初来日し、
東京帝国劇場においてギター演奏をしたのは、
1929年10月26日という記述がありまして、
時間軸で見たときにちょっと話が合わないような。
にしても、
セゴビアのギターの音には、たしかに、
古賀メロディにつながるものがあると、わたしも思います。

 

・新しきこともう一つ衣更え  野衾