『カラクテール』

 

岩波文庫に入っている『カラクテール』、
著者はラ・ブリュイエール。
この本、わたしにとりまして思い出深い本。
読んだのではありません。
いま、
会社の机の上に上、中、下、三冊並んで立っています。
なんで思い出深いかといえば、
大学生のころ、
ということは四十数年前のことになります。
大学生協の書籍部で、
岩波文庫フェアーか何かだったかと思いますが、
ほかの本といっしょに
そこに置いてありました。
『カラクテール』
なんだカラクテールって?
酒の名前か?
ひょっとしてひとの名前?
いや、むずかしい哲学の本か?
というふうで、
冷やかし気分で眺めていたところ、
わたしは習っていないけれど知っている英語の先生が、
その本を手に取りレジに持っていきました。
へ~、
あの先生、
こんなの読むんだ、
それだけのことですが、
なぜだかそのシーンを覚えています。
昨年のことになりますが、
岩波文庫版『カラクテール』の訳者・関根秀雄先生のお嬢さんに
手紙を書く機会がありました。
関根先生は、
モンテーニュの日本への紹介者
といっていい人で、
生涯をかけて『随想録』の日本語訳文を磨き、
生前いくつか訳書がでていますが、
没後四半世紀を経て国書刊行会から決定訳が出されました。
お嬢さんが解説を書かれています。
すばらしい翻訳で、
お嬢さんに連絡したのは、
これを読んだことがきっかけでした。
ご返事をいただきました。
というようなことがありまして、
関根先生が『カラクテール』も翻訳されていることを知るに及び、
読んでみようと思い立ちました。
四十数年前、
あの英語の先生がレジに持っていったのと同じ本。
こういう日が来ることを、
大学生時代のわたしは知る由もありません。
で、
『カラクテール』、
会社の机の上にあって、
いまのところ、まだ読んでいません。

 

・放屁して健やかに居り老いの夏  野衾