アリストテレスの射程

 

健康と病気については、たんに医者に属するのではなく、
それらの諸原因を語ることまでは、自然学者にも属している。
そして、彼らがどのように異なり、
どのように異なった領域を研究するのかということが、見逃されてはならない。
それは、
彼らの研究領域が少なくとも或るところまでは隣接しているということを、
事実として生じていることが証しているからだ。
実際、医者たちのうちでも、
洗練されておりしかも努力を惜しまない者たちは、
自然について何ごとかを語っており、かつ、
そこから自然学の諸原理を把握することが当然であると思っているし、
自然についての研究にたずさわる者たちのうえでも、
最も優美なる者たちは、ほとんど、医術の諸原理で終わるからである。
(中畑正志・坂下浩司・木原志乃[訳]
『アリストテレス全集7 魂について 自然学小論集』岩波書店、2014年、p.417)

 

上の文章は、坂下浩司さんの訳。
すぐれた翻訳があるおかげで、
アリストテレスの書物をおもしろく読むことができます。
『自然学小論集』の最後の文を読んだとき、
アリストテレスの志を感じました。
その点で、
たとえばわが国における
『和漢三才図絵』を著した寺島良安、
『自然真営道』を著した安藤昌益とも重なります。
そして、あらためて、
アリストテレスの学問は完結したものでなく、
ひょっとしたら、
万学の祖といわれるアリストテレスの学問を引きつぐ
人間の織りなす学問は、
どこまで行っても完結することはない
のかもしれないと、
そんなことさえ想像されます。

 

・夏を眺め危なげもなし崖の猫  野衾