万葉集の表記

 

奈美多氐波 奈呉能宇良未尓 余流可比乃 末奈伎孤悲尓曽 等之波倍尓家流

 

万葉集巻十八の4033番の歌。
これを、のちの漢字仮名交じりふうの表記に直すと、

 

波立てば 奈呉の浦みに 寄る貝の 間なき恋にぞ 年は経にける

 

こうなります。
以前にも触れたように記憶していますが、
いまいう恋愛の「恋」の字を、万葉仮名では「孤悲」と書きます。
これ、なかなかに意味深長。
なんでかといえば、
恋をするから「孤悲」、ひとりが悲しいのか、
「孤悲」、ひとりが悲しいから恋をするのか、
ん~~~
じぶんの半生を振り返ったときに、
なかなかな気がする、
だけでなく、
古代の人も、恋の中身、ありようと「孤」「悲」を関連づけていたのか
と思うから。
ちなみに、
4033番のこの歌、伊藤博さんの訳は、

 

波が立つたびに奈呉の入江に絶え間なく寄って来る貝、
その貝のように絶え間もない恋に明け暮れているうちに、
時は年を越してしまいました。
(伊藤博『萬葉集釋注 九』集英社文庫、2005年、p.340)

 

・代掻きや人間(じんかん)絶えて夜の星  野衾