黒馬物語

 

小学校の三年生か四年生の時でしょうか、
縁側の板張りのスペースに子供用の机を置いてもらい、
そこがわたしの勉強部屋、
ということになっていました。
田舎の農家のこととて
個人の部屋という意識がありませんでしたから、
机のあるそのスペースがじぶんだけの隠れ家(隠れることはできなかったけど)
みたいでうれしかったのを覚えています。
その頃、
学校の図書室から『黒馬物語』という本を借りてきました。
なぜその本を借りたのか、
その理由をまったく思い出せません。
いま思うに、
家で馬を飼っていたからかもしれません。
ともかく、
借りてきた本を何日か机の上に置きはしたものの、
中を見ずに返したような気がします。
あれから半世紀が過ぎて、
どういうわけか
そのことが気になりだして調べたところ、
イギリスの女性作家アンナ・シュウエルというひとが書いた小説で、
彼女は生涯これのみを書いて亡くなりました。
いくつか出ていた翻訳は、
どれも今は絶版ですが、
買おうと思えば安く手に入ります。
興味本位でいったんは買って読もうか
とも思いましたが、
けっきょくいまのところ買っていません。
なんとなく。
べつにいまさらという気がしないでもない。
読んでそれなりに面白いのかもしれないけれど、
ただ、なんとなく。
同じ頃、
ファーブルの『昆虫記』を借りだして、
こちらは読んだ記憶があります。
とにもかくにも、
けっして本が好きな子ではありませんでした。

 

・藪を漕ぎたづぬる滝や風光る  野衾