編集者空海

 

こういう時期ですので、
なるべく家でおとなしくし、
ふだん読めないものを読もうと思い立ち、
以前購入していてつんどく状態だった
沙門空海の『文鏡秘府論』を読みはじめました。
空海は、
遣唐使として804年に唐に渡りますが、
二年後、帰国する折にいくつかの文献を日本にもたらしました。
そのなかから、
六朝時代から唐代にかけての創作理論をえらび
編纂したものが『文鏡秘府論』です。
これは、
その多くが彼の国の文献からの引用で、
空海の文章は、
天巻の総序と東巻、西巻に付された小序のみ。
おもしろいのは、
文献の編集の仕方で、
空海はあまたある文献を
天巻、地巻、東巻、南巻、西巻、北巻に整理し、まとめています。
解説者の興膳宏によれば、
曼荼羅を意識したものであろうとのこと。
こまかい理論はともかく、
詩文について、
六朝および唐の時代のひとびとがどんなふうに考えていたか
がしのばれ、
千二百年の時をゆっくり旅してあそぶ風情。
きのう読んだところに、
「詩はこころを寛(ゆる)ませる」
とあり、
合点がいきました。
興膳さんは、
吉川幸次郎の弟子筋にあたる方ですが、
興膳にとっての『文鏡秘府論』の語釈・解説は、
いわば、
吉川幸次郎の『杜甫詩注』にあたるかとも思われます。
筑摩書房からでているこの巻には、
『文鏡秘府論』を抄録要約した『文筆眼心抄』も入っていて便利。

 

・藪漕ぐや鳶の下なる滝の春  野衾