ふとごべ

 

・天気予報けふも夏日と告げにけり

著名な作家さんが声をかけてくださり、
それはとてもありがたいことで、
あるパーティーに参加してきました。
海の見えるホテルの最上階、
目に綾なレストランで、
フランス料理のフルコースをいただき、
なごやかな雰囲気のまま会は進行していきます。
各界のお歴々がつどうパーティーながら、
肩の凝るようなものでは決してなく、
ときどき笑いが起こるような、
実際、
新参者のわたしまで
つられて何度も笑ったぐらいですから、
たのしい、
すてきなパーティーだった
とは思います。
が、
そうした集まりに身を置いていると、
毎度のことながら、
変な虫がうごめいてくるのを
どうすることもできません。
時間が気になり始め、
腕時計に目をやりたくなる自分を、
眼球が下に向かわぬよう
こらえるのに必死でした。
秋田の方言で「ふとごべ」という言葉があります。
「ふと」は「ひと」、
「ごべ」がどこから来たのか
調べがついていませんが、
「ふとごべ」する、
とは要するに
「人見知り」すること。
子どものころ、
家に大人たちが集まり
飲み食いするのを
暗い部屋から
台所のゴキブリよろしく
そっと覗いていたものですが、
あのころの癖が
いっこうに治っていないようなのです。
結局、
わたしには、
クサヤとパーティーは合わないみたい。
ようやく会がお開きになり、
しかるべき人に
しかるべくあいさつを済ませ、
早々に会場を後にしました。
ゆりかもめに揺られながら、
「ふとごべ」の魂を
墓場まで持ってゆかねばならぬのかと、
とほほな気分で
夜の海を眺めていました。

・段段の雲紅に染まりけり  野衾