迷子

 

 静けさや記憶のよこの春の海

五歳? 六歳?
出戸浜だろうか
少し大きめの半ズボンを穿き
ビーチボールのタッグを手に持ち
脚をひろげ
まぶしそうな
はずかしそうな
泣いた後のような
じっさい
泣いた後だったのかもしれない
そのことを
わたしはずっと忘れていた
あの感じ
つーんと鉄のやけたにおい
セピアいろに変色していく
おおぜいいるのに
うみは近いのに
一人ぽっち
とうさん かあさん
ぼくはもう一人で生
きて
いかなければならない
ぷつりと切れて
行き場をなくし
どこへも…
そのときだ
つとむおじさんに
こえをかけられたのは
わたしはかろうじて立っている
からだの記憶
きょう不意に思い出したのだ

秋田魁新報に拙稿が掲載されました。
コチラです。

 迷子が迷子を見ている春  野衾