秋朱之介

 

 晴れ晴れと何を映して鰯雲

恩を売るわけではないけれど、
こちらのしたことに対して何の応答もなく、
あたりまえとでも思っているのかと訝しく感じた日は、
疲れる。
S氏からお借りした秋朱之介の『書物游記』を読み始める。
特殊な限定出版の装丁(秋氏ご本人は「装釘」を用いている)
を生業とした出版人(秋氏ご本人は「出版家」と称している)
であったらしく、
一文一文に本づくりにかける氏の気迫が篭っている。
「私が今ほしいものは金である。資本である。
それさえあれば、活字を買える。紙を買える。羊皮紙を仕入れられる。
私は一生に一度は羊皮紙の本を作りたいと思っている。」
疲れが飛んだ。

 此処其処と蝉の死骸の黙しけり