テムズ川ウォーキング

 Tさん来社。映画会社で長くニュース映画をつくってこられた方で、若い時からイギリスに興味があり、会社を辞めたあと夢をかなえ、この度めでたくテムズ川に沿った三百数十キロの道を踏破された。
 小社から刊行している『テムズ川ウォーキング』を事前に読まれた。サブタイトルにあるように、『テムズ川〜』の著者岡本さんが歩いたのは、オックスフォードからウィンザーまでの120キロだが、Tさんはその三倍、とまではいかないがかなりの距離。
 どこどこの観光案内ということであれば極端な話、一冊あれば足りる。だが、実際に歩いてみれば、小さい悟りがそこここにあって、人の数だけ旅があり意味も違う。そこがおもしろい。
 テムズ川パスには、川から離れ少し内陸に入りこむと遺跡など見所もあり、それなりに楽しめる。そのうちのいくつかをTさんは見たが、あるとき、川のせせらぎを眺め、頬を撫ででゆく風に身をまかせているうちに、死んだ遺跡を見に行くよりも、いまこうしてゆったりとした時間のなかで生きて川面を見ていることのほうがより大事ではないかと実感したという。
 「ゆったり」ということがキーワードなのだろう。歩くこと、本を読むことも、ゆっくりゆったりがいい。(ク)