気晴らし

 一日中家にいても体がなまるし飽きてもくるので、ちょうど生ゴミの袋がなくなったから、散歩がてら駅の近くまで歩いてみることにした。
 ぽかぽかと日差しが心地よく、なんだいつもと同じだなと思えてくる。小料理千成に顔を出し、帰りに寄るからと声をかけ、外へ出ると、ご近所のSさんに声をかけられた。「あら、どうされました?」「ええ、ちょいと鎖骨を折りまして。アハハハハ…」「笑い事ではありませんよ。たいへんですね」「ええ、まあ。そう大したことではありません、自然にくっつくそうですから…」「そうですか。どうぞお大事になさってください」「はい。ありがとうございます」
 急ぐ用でもなし、てくてく歩いていたら、自分の脚で歩いているのに、なんだか昔の駕籠にでも乗ってゆらりゆ〜らり、景色を眺めているような気分になった。これはいつもと違う。ほほほ。
 いつまでたっても名前を憶えられない駅前のスーパーマーケットで生ゴミの袋とファブリーズと詰め替え用の無香空間なんかを買って、ふむ、この気分何かに似ておるなと思ったら、蟻だ。蟻な気分。顔まで蟻に変身か。髭をいつ剃ろう?
 小料理千成は、ひっきりなしに電話が入り、本日の予約終了とか。連休の谷間、家族で千成の美味い料理を食べに行こうかの人たちなのだろう。わたしは刺身とクジラ肉の竜田揚げとキンキの煮付けと野菜の酢の物をいただいた。ミョウガの味が舌にぴりりと刺さる。エビの天ぷらは後日にとっておくことに。
 お勘定を済ませ出ようとしたらちょうどママさんが入ってきて「どんな具合かしらと思ってホームページを覗いていたところよ」と言った。
 階段はきついのでS字カーブの道をゆっくりと登った。カーブの曲がりっぱな、小学校三、四年生ぐらいだろうか、まだ開かぬつぼみのようにしゃがみ込み、顔を寄せ合い、坂を登るわたしの存在など全く気付かぬようにゲームに夢中になっていた。それがなんだかありがたかった。
 コーナーを曲がってしばらく行ってから振りかえってみたが、さっきと同じ格好だったので可笑しくなった。