朝のあいさつ
このごろはよく守宮に会います。小さくてかわいいので、会えばヤモちゃん、
と声をかける。
タモリさんのことを、皆さん親しみをこめ
タモさん、タモちゃんと呼んでいるような感じかな。
きのうの朝も居ました。
ゴミネットを組み立てるとき、きっと居るなと思って注意すると、やっぱり居た。
おはようヤモちゃん。
ネットを伝わり、隙間をかいくぐり、
巧みな身のこなしでネットを降り、藪のほうへ身を隠します。
四時台なので、まだうす暗い。
部屋に戻ると、こんどは蜘蛛くん。
この子はだいたい居ますね。
声をかけても分からないでしょうけど、
つい、
「あっち行ってなさい。踏まれるよ」
なんて。
ツツ、ツツと、
小さく動く影を見れば、条件反射のごとく、だいたい声をかける。
「あっち行ってなさい。踏まれるよ」
たまに、
いかにも声掛けに反応するかのように、ツツ、ツツ、ツツ、
カーテンのほうへ身を避けることも。
それから先だって、こんなことがありました。
雨がしこたま降った日の朝、
ベランダに、大きさは椋鳥ぐらいかと思いましたが、椋鳥でないかもしれない。
いや椋鳥かもしれない。
ともかく。
羽も頭も尻尾も、全身びしょぬれで、
しばらくベランダにいました。
しばらくそこに居て、雨が止むのを待っていればいい、
というようなことを思った。
つい、つぶやいたかもしれない。
ヒョイと見ると、居る。そうか。開いた本の頁に目を落とす。目を上げる。居る。そう。
頁に目を落とす。目を上げる。居る。そうだな。
何度かくり返したあと、目を上げると、
あれ、
居ない。
こんなに降っているのに、飛び出していってどうするの、
と、
あ、戻ってきた。
それからまたしばらくベランダに居た。
そんなことがあった日の翌日、
仕事帰りに保土ヶ谷橋の交差点から小路に入っていつもの急階段を上り切り、
左のゆるい坂道を歩きはじめたら、
あっ!
このまえの椋鳥。
ちがうか?
いや。きみでしょ、きみ、
先だっての。
返事はもちろんないわけだけど。
ジッとこちらを見ている。
それから、パッと飛び立った。
んー。やっぱり、ことばじゃない何か、が通じるのじゃないか、
そう思いたくなる。
・夕立止む吾も夕立のこころかな 野衾