ピーンでなくピー

 飲み友達のK氏曰く、流星少年パピーが出動する時に発する言葉は、「ピーン、パピー」ではなく「ピー、パピー」である。野沢那智のような張りのある立派な声で何度もそう言った。あれはピーンでなく、ピーだ!
 K氏、このごろ相当この欄を読んでくれているらしく、昨年11月11日の記事中にある間違いを指摘してくれたのだ。有難し!
 単純なことのようだが、「ピーン、パピー」と「ピー、パピー」では随分印象が異なる。立ち幅跳びと走り幅跳びぐらいに違う!? それに「ピー、パピー」は「ピー、パピー」と表記するよりも「ピーッパピー」とした方が、よりリアルかもしれない。リアルだし、なんたって勢いがある。
 運動のからっきしダメだったA君がトイレで用を足した後「ピーッパピー」と叫び、脱兎のごとく走り去る、その時だけは万能のスーパーヒーローになっていたのだろう。
 いま急に思い出したことがある。父がまだ高等科(いまの中学校)一年生の時、ということは敗戦の年。高校受験を控えた生徒に対し(当時二年で卒業だったが、一年が終わった時点で受験できた)面接の模擬試験をしてくれた担任の先生が、ある男子生徒に向かい「君はなんの運動が好きか」と訊いたそうだ。すると、訊かれたその少年、まだ本番前の練習だというのに、よほど緊張していたのか、腹が減っていたのか、「は、はい。ぼ、ぼ、ぼくは煮たうどんが好きです」。先生「もう一度言ってみろ」。少年「煮たうどんであります」。先生「ぶあっかものーーーっ!!」
 先生がいくら馬鹿者と叫んでも、敗戦の年のこととてろくな食い物がない。運動のことを訊かれ、うどんと答えてもいた仕方なかったろう。また、先生も生徒も秋田のド田舎のひと、質問中の「運動」だって(わたしも秋田弁で育った人間だからわかる)限りなく「うどん」に近かったはずだ。父もよほどそのことが印象に残っていると見えて、いつも楽しそうに話す。
 「ピーン、パピー」からとんだ話になってしまった。