鍼が無~い!

 

・腹に沁むれんこん汁の青さかな

鍼灸師も人によって技がいろいろで、
名古屋の名人は、
刺しては抜き刺しては抜きし、
元住吉の名人は、
刺してしばらく放っておきます。
先日久しぶりに元住吉の名人のところに参り、
鍼を刺してもらい、
灸をすえてもらいました。
全身すっきりとし、
着替えをしていると
やおら先生やってきて、
「おかしいなぁ……」
「どうしました?」
「いやね。一本足りなくて」
「へ!?」
「鍼が一本足りないんですよ」
「はあ……」
「全部抜いたんだけどなぁ」
「わき腹にも無いですよ。ほら。首にはきょう刺さなかったし」
「尻はどうですか?」
「尻ですか?」
穿いていたズボンをまた下ろし、
先生の方へ
尻をぐいと突き出すと、
「やっぱり無いですね。おかしいな」
「床に落としたんじゃないですか?」
「見たんだけどな。あ。あった! よかった!」
「ありましたか」
「ありました」
「…………」
下げたズボンをふたたび上げました。

・れんこんの穴を潜りて出口無し  野衾