映画監督山田洋次さんのエッセイ集を読みました。『映画館がはねて』。
映画界では映画館のことを「こや」、開館を「うちこみ」、閉館を「はねる」
というそうで、
書名の「映画館」には「こや」とルビが振られています。
肩の凝らない短めのエッセイをあつめたなかに、「エミ子さん」という文章がありました。
「テレビのメソメソしたメロドラマなんか大嫌い。寅さんはいいな、
だって私もあんな風に馬鹿で損ばかりして生きてきたんだもの」
本当に寅さんのように向う見ずで、一本気で、正義感が強くて嘘がつけない性格ゆえに、
彼女はさまざまな衝突をくり返して生きてきた。
何度も警察沙汰をおこして少年院送りとなったこともあったが、盗みとか売春とか
いった類の犯罪は決して犯したことはなかった。
ただ不当な仕打、理由のない差別に徹底的に反抗したのであって、
他人に云えないような恥ずかしいこと一度だってしてないんだ、
というエミ子さんの云い分を、私は心から信じている。
思えば世の中には華やかに着飾り美しい微笑をうかべながら中味の汚れた淑女や紳士
がどんなに大勢いるだろうか、
と私はエミ子さんの話を聞きながらいつも思っていた。
(山田洋次『映画館《こや》がはねて』講談社、1984年、pp.42-43)
ほんとうに。文章を読めばエミ子さんが実在の人物であることは分かるのですが、
この気っ風のよさ、どこかで見たことがあるような、
知っている人であるような気がしてきます。
・日盛を黙し斜めに歩くかな 野衾







