きのうにつづいて「エミ子さん」にかんする文章ですが、読んでいて、途中から、
あれ、これひょっとしたら、というある想像がはたらいてドキドキ、
なので、むしろ、ゆっくりゆっくり読むことになりました。
「今日、母さんに逢って来た」
と、ある日彼女に告げられてびっくりしたことがあった。
手づるがあって母という人が新宿のバーで雇われマダムをしていることを知り、
逢いに行ったのだそうである。
何の追憶もない母親の前に立って、
この人が私を生んだ女かと思っても奇妙に感動が湧かないものだ、
というようなことをエミ子さんは語った。
「仕方ないから、あんた本当に私のお母さん? と聞いて見たの」
と冗談のように云う彼女の顔を見ながら、
私たち夫婦は涙をおさえるのに苦労したものである。
寒くなると南の、
たとえば四国や九州の温泉場のバーで働き、暑くなってくるとだんだん北へ移動する。
汽車賃なんかなくたって一向平気、通りすがりの車が拾ってくれる、
というエミ子さんの青春時代のフーテン暮しは、
寅さん像にはっきりと投影されているし、
『男はつらいよ・寅次郎忘れな草』の中で浅丘ルリ子さんが演じた放浪の歌姫、
リリー像はこの人がモデルなのである。
(山田洋次『映画館《こや》がはねて』講談社、1984年、pp.43-44)
そうでしたか。なるほどねぇ。それにしてもリリーさんにモデルがいたなんて、
思ってもみませんでした。
マドンナ役として浅丘さんは四回『男はつらいよ』に出ていますが、
映画のなかでも、
リリーさんが母親に逢いに行くシーンがたしかありました。
エミ子さんがモデルだったんですねぇ。
・炎天にけふの務めの二つ三つ 野衾

