ひとつとして同じモノがない 1

 

2024年1月に弊社から刊行した加藤英明さんの『ひとつとして同じモノがない
トヨタとともに生きる「単品モノ」町工場の民族誌

が、中小企業研究奨励賞経営部門の本賞を受賞しました。
きのう、その授賞式が水道橋の東京ドームホテルであり、
著者の加藤さんはもちろんですが、
版元の出版社も受賞の対象ということで、出向いてきました。
編集担当は韓智仁さん。装丁は長田年伸さん。
わたしは、いい機会だと思いましたので、
授賞式の案内をいただいてから、やっと精読しました。

 

さらには、公差の範囲内におさめることは、道具の使用や転用だけでなく、
身体感覚を伴う技法を必要とすることもあった。
部本Sを製作するときに使用した専用治具は、
テーパの形に対応するためにH氏が独自に製作した補助具であり、
専用治具の面と爪上部の面を均等に当てることで、
対象物がずれない位置に決めるための機能をもつ。
その使用方法は、
加工対象物を専用治具に入れて、その状態で爪の上部に押し当てながら
NC旋盤のペダルを踏み固定する。
そのときに、
対象物を爪の上面に当てた状態で、
「しっくりくる」まで何度もペダルを踏み直し固定する。
この「しっくりくる」感覚について、H氏は
「手のひらを合わすような感じ」
と述べており、
面と面をぴったりと合わす感覚を必要とするものであった。
テーパの形に対応するために単純に道具を使用する
だけでなく、
その道具を使用するために身体感覚を動員することで、
はじめて公差の範囲内におさめることが可能となった。
(加藤英明[著]『ひとつとして同じモノがない
トヨタとともに生きる「単品モノ」町工場の民族誌』春風社、2024年、pp.234-235)

 

著者の加藤英明さんは、南山大学人類学研究所のプロジェクト研究員です。
わたしにとりまして、
はじめて目にする専門用語もありましたけれど、
そのつど、本文に説明があり、また辞書やパソコンで調べれば、
すぐにわかります。
100分の1ミリ、さらにミクロン単位の仕事をしているところで、
「しっくりくる」感覚を重んじていることに、
ふかく感銘をうけました。
大企業を支える町工場ではたらく人の技術、工夫、誇りを、
ていねいに記述しています。

 

・声かけて草野球の春となる  野衾