一日に一頁だけ読む本が数冊ありまして、たとえていうなら、
親や友だちや近所の人に、
「おはようございます」「こんにちは」
と、あいさつするような感じでしょうか。
一年で終る本もあれば、
十年ちかく、
まいにちあいさつする本もあります。
ことしは七月から
おーなり由子さんの『ひらがな暦 三六六日の絵ことば歳時記』
が加わりました。
「ひらがな暦」の「暦」に「ごよみ」
とルビが振られています。
夜の露天風呂。湯気が夜の色にかさなって白くゆれている。
ぼんやりとしたあかりのそばを流れるお湯の音を聞いていたら、
女の人がはいってきた。
うちの母親と同じくらいの年かな、と思っていたら
「天気、あしたもいいみたいですよ」
と、話しかけられた。
「星、いっぱいでてますもんね」
と、お湯の中からいっしょに夜の空を見あげる。
わたしのことを、
お嫁にいった娘と同じくらいだと言い、
住んでるところを聞いてみると、実家のそばだったので、
じゃあ、あそこで、買い物?
などと、話に花がさく。
声のすきまを流れていくお湯の音。
頭に巻いたタオルの先から、しずくがこぼれて、
夜がふかくなっていきました。
(おーなり由子[著]『ひらがな暦 三六六日の絵ことば歳時記』
新潮社、2006年、p.332)
文章はもちろんですが、絵も、おーなり由子さん。
由子さんは「ゆうこ」さん。
天はアンカットで、さわれば、ぎざぎざの紙の風合いをたのしめます。
ていねいにつくられた本だと思います。
引用したのは、十月十八日のもの。
タイトルは「湯の音」。
・吾の秋刀魚となりの秋刀魚より大きい 野衾