山本夏彦

 

あらゆる言論はすべて読まれることを欲する。むろん私も欲する。
してみれば私もまず読者の気に入ることを言わなければならない。即ち迎合である。
迎合するとみせかけて、自分の言いぶんを通そうとする
のが私にとっての言論だとすれば、
レトリックの秘術をつくさなければならない。
読者ははじめそれにだまされるが、
次第に顔色をかえる。
飴をしゃぶらせて熊の胆(い)をのませようとするのだなと感づくのである。

 

山本夏彦著『私の岩波物語』にあることば。
ずっと岩波書店のことかなと思いきや、
そうではなくて、
講談社、中央公論、電通、博報堂などのことがでてきて、
おもに昭和の出版事情についておもしろおかしく書いている。
どくとくの語り口調で、
その特徴は引用した箇所にもあらわれているようです。

 

・會釋して秋の好き日を終ひけり  野衾